事業主等の労災特別加入 保険料と受給要件
中小事業主等の労災特別加入の場合、保険料、そして受給要件はどうなっているのか。従業員(労働者)との違いはあるのか。その辺も気になるところだろう。
自分で決めた『給付基礎日額』に応じた保険料
労働者の場合は事故発生前3ヶ月間の平均賃金と似た『給付基礎日額』が自動的に算定されるが、特別加入者の場合は3500円から2万5000円(4000円~1万円は1000円刻み・1万円~2万円は2000円刻み)の範囲で自分で決めることになる。
それをもとにほとんどの保険給付額が決まってくる。
正しくは『申請に基づいて労働局長が決定する』ことになっているが、申請した給付基礎日額が拒否されることはまずないだろう。
とはいうものの、実態に即した額とすることが原則なので、法人役員なら役員報酬・個人事業主なら個人収入をもとに適正な額を申請するに越したことはない。年収500万円なら1万2000円・800万円なら2万2000円…というようにだ。
もちろん『医療費だけ出れば問題ない』というのなら、最低額の3500円にしてもいい。
・ 複数の業種にまたがるならそれぞれで加入
気を付けるべきは、『製造業と建設業』とか『運送業と小売業』というように複数の業種にまたがる事業の場合は、それぞれの業種で加入する必要があることだ。
そうしておかないと、たとえば『製造業と建設業』の事業で『製造業』でだけ特別加入していると、建設業の仕事でケガをしても一切補償の対象にならない。この辺はシビアなので、ここでケチってはいけない。
・ 保険料率は労働者と一緒
こうして『給付基礎日額』が決定すれば、保険料率については労働者と全く一緒だ。事業主だからといって保険料率が労働者より高くなるようなことはない。
たとえば給付基礎日額を1万円にしたのなら年間の収入は365万円になるので、労働者の場合と同じように、これに業種による保険料率をかけた金額が年間保険料になる。
年間保険料の一例をあげると次のようになるが、労災保険料率については業種が非常に細分化されているので、詳しくは厚労省のhp等で確認してほしい。上に書いた通り、これは一般労働者と全く同率だ(『%』でなく千分率なので注意)。
・ 特別加入者の保険料例
給付基礎日額
業種例 保険料率 3500円 1万円 2万5000円
林業 52‰ 6万6430円 18万9800円 47万4500円
普通の海面漁業 18‰ 2万2995円 6万5700円 16万4250円
土木工事業 15‰ 1万9162円 5万4750円 13万6875円
既設建設物設備工事業 12‰ 1万5330円 4万3800円 10万9500円
建築事業 9.5‰ 1万2136円 3万4675円 8万6687円
食料品製造業 5.5‰ 7026円 2万0075円 5万0187円
小売・飲食・サービス業 3‰ 3832円 1万1950円 2万7375円
金融・不動産業 2.5‰ 3193円 9125円 2万2812円
・ 従業員分と一緒に納付
保険料の納付については、概算・確定保険料の納付の際に労働者分とまとめて納付する。年度途中の加入・脱退の際は、特別加入者分は月割りになる。
細かい話になるが、一般拠出金(0.02‰)は労働者分だけなので、特別加入者分はかからない。
保険給付も労働者とほとんど変わらないが…
特別加入者の保険給付の要件についても労働者とほとんど変わるところはない。通勤災害についてもまったく同じように受けられる。ただ、業務による場合、肝心の『労災』と認められるかどうかという点で大きく違う点があり、ここはしっかり理解しておかなければならない。
・ 労災と認められないことも
労働者が業務上ケガをしたのであれば、いつ何時でも業務災害だが、特別加入者の場合は業務上でも労災と認められない場合がある。次のような場合だ。
所定の始業~終業時刻と離れた時間帯に、1人で作業中
労働者と一緒に『残業中』なら問題はないが、申請時に提出した始業~終業時刻を過ぎていったん仕事が終わり、家に帰って夕食を取ってから仕事を思い出し、1人で作業していたような場合は労災とは認められない。
もちろん、終業時刻が過ぎてすぐ1人で後始末をしていたような場合は大丈夫だ。
経営者としての作業中
これは分かりやすいと思うが、従業員の行う仕事とは全く別の、経営者としての仕事中の事故は、労災とは認められない。
・ 賞与関連の特別給付はもらえない
給付額については次回まとめる。給付基礎日額の20%と決まっている休業特別支給金や、定額で支給される障害特別支給金等は支給されるが、年間の賞与額を基礎とする障害・遺族『特別年金』等は支給されない。
・ 入院時以外の休業補償給付は難しい
法律上は『通院時は不可』とか決まっているわけではない。ただ実際には特別加入者が入院時以外に休業補償を受けるのは難しい。というのは…
特別加入者は『全部労働不能』のときだけ休業(補償)給付を受けられることになっている。
実務上は特別加入者が『入院加療中』であれば『全部労働不能』と認められるが、それ以外の場合は、指示や監督も含めて一切の労働が不可能であることを証明しなければならないからだ。
もちろん自宅療養でも最初からあきらめる必要はないが、非常に困難を伴うことは頭に入れておいた方がいい。
・ 役員報酬は満額もらって可
会社役員の方ならご承知の通り、役員報酬というのは『定期同額』が原則で、変更は基本的に年1回の決算時に決まっている。役員報酬がそのままでも休業補償をもらえるのか?これはけっこう大問題だ。
これについては、
特別加入者は、所得喪失の有無に関わらず休業(補償)給付の対象になる
ことが明示されている。
『労働者』の場合の休業補償給付の支給要件は『療養のため、労働することができないために賃金を受けない(賃金が平均賃金の60%未満の場合を含む)』ことだった。
ここだけは特別加入者の方が優遇されている珍しい点で、役員報酬にしろ家族従業員の給与にしろ、そのまま支給して大丈夫だ。
健康保険の『傷病手当金』なら、報酬がそのまま支給されていれば支給対象外だが、それ(傷病手当金)とは全く違うので安心してよい。
※ 訂正
・ 特別加入者の保険料例
林業と食料品製造業の保険料率が'23年度のままになっていたので訂正します。
林業 60‰ ➡ 52‰ ・ 食料品製造業 6‰ ➡ 5.5‰ '24.11.27