₁₇₁.休業補償給付が年金に代わるとき



傷病補償年金とは


・ 休業補償給付に期限はない


 誤解されることがあるが、休業補償給付(通勤災害の場合の休業給付も同じ)に支給期限はない
 私傷病の場合に健康保険から支給される『傷病手当金』は支給期間が1年6ヶ月と決まっていて同じ傷病なら延長はないが、これとは全く違う。

 ただ、休業補償給付を受けている方が1年6ヶ月たっても治らない場合は年金に切り替わることがある。それが『傷病補償年金』だ。

 ここで、切り替わる条件を満たさないのなら、支給要件を満たす限り休業補償給付がずっと支給されることになる。
 

・ 『治った』・『治癒した』の意味

 
 ここで『治らない』というのは『症状が固定していない』ということだ。
 傷病の症状が安定し、医学上一般に認められた医療を行ってもその医療効果が期待できなくなった状態になれば、労災保険上は『治った』・『治癒した』ことになる。

 『治った』・『治癒した』といっても必ずしも元の状態に戻ったことを指すものではない。
 

『傷病補償年金』に切り替わる要件

 
 ここで『休業補償給付』が『傷病補償年金』に切り替わるのは、その負傷を負い、または疾病にかかった労働者が、療養開始1年6ヶ月以後に、次の2つを満たした場合だ。

① その負傷又は疾病が治っていない
② その負傷又は疾病による障害の程度が『傷病等級』に該当する

 労基法の休業補償にはこうした制度はないので、その傷病が『治って』いなければ、基本的にはその状態が続く限り『休業補償』することになるが、労災保険の場合は、その時点で一定の障害状態にあれば『年金』に移行することになる。
 

傷病等級とは

 
 『傷病補償年金』には1級から3級まであって、この等級は後述する『障害補償年金』の等級とほぼ同じだ。その状況を示すと、
 

・ 1級

① 神経系統の機能または精神に著しい障害を有し、常に介護を要する
② 胸腹部臓器の機能に著しい障害を有し、常に介護を要する
③ 両眼失明
④ 咀嚼及び言語の機能の喪失
⑤ 両上肢をひじ関節以上で喪失
⑥ 両上肢の用を全廃
⑦ 両下肢をひざ関節以上で喪失
⑧ 両下肢の用を全廃
⑨ ①~⑧と同程度以上の障害状態
 

・ 2級

① 神経系統の機能または精神に著しい障害を有し、随時介護を要する
② 胸腹部臓器の機能に著しい障害を有し、随時介護を要する
③ 両眼の視力が0.02以下
④ 両上肢を脱関節以上で喪失
⑤ 両下肢を足関節以上で喪失
⑥ ①~⑤と同程度以上の障害状態
 

・ 3級

① 神経系統の機能または精神に著しい障害を有し、常に労務に就けない
② 胸腹部臓器の機能に著しい障害を有し、常に労務に就けない
③ 1眼を失明し、他眼の視力が0.06以下
④ 咀嚼又は言語の機能の喪失
⑤ 両手の手指の全喪失
⑥ ①~⑤のほか常に労務に就けない・①~⑤と同程度以上の障害
 

にある場合だ。
 ザックリ言うと、それぞれ①・②の精神・神経系統・内臓の傷病については、その傷病によって

1級は、常時要介護状態
2級は、随時要介護状態
3級は、常時労務不能の状態

にある場合といえる。
 また、それぞれ③以降で『治っていない』(治療効果が期待できる)場合は少ないだろうから、『治って』(症状固定して)いる場合は傷病補償年金ではなく後で述べる『障害補償給付』の方に移行することになる。
 

傷病補償年金の給付額

 
 傷病補償年金の給付額は、次のように給付基礎日額の313~245日分となっているので、『給付基礎日額』に対する日額を計算すると右のようになる。

                 『日額』の給付基礎日額に対する割合
・ 1級 給付基礎日額の313日分      85.8%
・ 2級    ”    277日分      75.9%
・ 3級    ”    245日分      67.1%

 ここで「2級・3級なら『休業補償給付』より低額じゃないか!」というのは気が早すぎ。『休業補償給付』の『給付基礎日額の8割』というのは本来の『6割』に『特別支給金2割』を合わせたものだった。
 

『傷病特別年金』が加算される

 
 傷病補償年金にも『特別支給金』が加算される。『傷病特別年金』というもので、給与ではなく、負傷・発病の日以前1年間に支給された『賞与額』が基準になる。休業補償給付の請求書に賞与額と支給日を書く欄があるのはそのためだ。
 

・ 1日分の賞与?が基準(算定基礎日額)

 
 具体的には、まず次の金額のうち最も少ない金額の365分の1(1日分)を特別年金の基準(『算定基礎日額』)とする。

① 負傷・発病の日以前1年間に支給された『賞与額』
② 給付基礎日額 × 365 × 20%
③ 150万円

 つまり、年間にもらった賞与を毎日少しずつ定額で支給されたときの『1日分の賞与』だ。もっとも②・③の2つのリミットがあるので、いずれか低い方のリミットを超す場合は、そのリミットが『算定基礎日額』になる。

 実際の『傷病特別年金』の支給額は、『算定基礎日額』の

・ 1級   313日分
・ 2級   277日分
・ 3級   245日分

になる。見ての通り、日数は『傷病特別年金』のそれと同じだ。
 

『傷病特別支給金』が1回支給される

 
 さらに、傷病補償年金の支給が決定されたときは、1回きりだが定額の『傷病特別支給金』が支給される。金額は

・ 1級   114万円
・ 2級   107万円
・ 3級   100万円

と決まっている。
 

結局いくらもらえる?

 
 傷病補償年金は、特別支給金を加えて結局いくら支給されるのか。『給与や賞与・算定期間中の勤務状況によって色々ですよ』というのが正しい答えかもしれないが、これでは身もフタもないので平均的な場合で試算してみる。

 毎月勤労統計によると2023年の労働者平均は、

給与月額32万9778円・賞与合計79万2776円

ということなので(年収475万0112円になる)、これをもとに計算すると概ね次のようになる。

    傷病補償年金   傷病特別年金 =  年金計   傷病特別支給金(1回)
・ 1級  339万円  +  68万円  = 407万円     114万円
・ 2級  300万円  +  60万円  = 360万円     107万円
・ 3級  266万円  +  53万円  = 319万円     100万円

 なおこの場合、賞与の79万2776円というのは、

給付基礎日額(1万0843円)× 365 × 20% = 79万1539円

をわずかに上回るので前々項の②により、こちら(79万1539円)の365分の1(2,169円)が『算定基礎日額』となる。

 ちなみに、休業補償給付の場合、日額6,505円・休業特別支給金を含めて1日8,673円なので、年額では316万5645円になる。今回の傷病等級でいうと3級でもギリギリこれを上回る計算だ。

 

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2024年09月10日