前々回、通勤災害の場合に監督署に『報告すべき状況』の1つとして『通勤の種別(どこからどこへの移動か)』を挙げたが、《家と職場の往復以外で『通勤』ってあるの?》と疑問に思った方もいるだろう。
これがあるのだ。通勤災害時、監督署に必ず提出する『療養の給付』(または療養の費用の給付)の請求書に次の5つが明記してある。
イ. 住居から就業の場所への移動
ロ. 就業の場所から住居への移動
ハ. 就業の場所から他の就業の場所への移動
ニ. イに先行する住居間の移動
ホ. ロに接続する住居間の移動
イ・ロ 住居と就業場所の往復
住居 ⇔ 就業場所
イ『住居から就業の場所への移動』・ロ『就業の場所から住居への移動』は、出勤・退勤時ということはすぐにお分かりと思う。
ここで『住居』とは『労働者が居住して日常生活の用に供している家屋等』をいい、交通ストライキ・異常気象等で臨時にホテル等に泊っていても、そのホテル等が『住居』とみなされる。
ハ. ダブルワークの職場間移動
住居 ➡ 就業場所A ➡ 就業場所B ┓
┗━━━━━━━━ ← ━━━━━━━━━━┛
ハ『就業の場所から他の就業の場所への移動』というのはダブルワーク(以上)の場合の職場間移動だ。上図の『就業の場所A』から『就業場所B』への移動なら『就業の場所Bへの出勤途中』として通勤災害の対象になる。
ただしこれは『就業の場所A』についても『厚生労働省令で定める就業の場所』という条件がついていて、『就業の場所A』が労災保険に加入していることが必要になる。
めったにないとは思うが、就業の場所Aが従業員5人未満の個人事業の農業等、労災保険加入が任意になっている事業所で任意加入していない場合は、労災保険の通勤災害の対象にはならない。
言うまでもないが『就業の場所A』が法人や、農漁業以外の個人事業など、労災保険の加入義務があるにもかかわらず事業主が手続きしていない場合は、『手続きをしていない』だけで『労災保険には加入している』ので、そこでハジかれることはない。
ちなみに、『就業の場所A』への出勤時や『就業の場所B』からの退勤時の事故は、それぞれA・Bに関する通勤災害になる。
ニ・ホ 帰省先と赴任先の住居間の移動
就業場所 ━━━━━━━━━━━┓
↑↓ ┃
赴任先住居 ⇔ 帰省先住居
ニ『イ(住居から就業の場所への移動)に先行する住居間の移動』とか、ホ『ロ(就業の場所から住居への移動)に接続する住居間の移動』とは何のことかというと、単身赴任者を想定し、その帰省先と赴任先の住居の間の移動を指す。
この移動は反復・継続して行われていることが求められ、『反復・継続』とはおおむね毎月1回以上の往復がある場合とされる。
・ 典型的には単身赴任者の『金帰月来』
典型的には単身赴任者が『金帰月来』(金曜日に帰省先に戻って月曜日に出てくること)する場合に、金曜日、いったん赴任先のアパートに帰って、そこで支度をして帰省先に帰るような場合だ。
ただ、この場合は業務終了日やその翌日に帰省先に移動した場合は文句なく『通勤』だが、連休が何日あっても業務終了の翌々日以降に帰省した場合は、交通機関の乱れなどすぐ帰らなかった『合理的理由』がないと通勤とは認められない。モタモタしないでさっさと帰った方がいい。
帰省先から赴任先のアパートに赴くときも同様に、業務開始2日前以前に移動した場合はその『合理的理由』が問われる。
ここでは事故発生時にそれが『通勤災害』と認められるために、業務終了・開始と移動との時間差の合理的な理由を国(労災保険)から問われる場合を説明したのであって、奥さんから問われるかどうかはまた別の問題だ。(冗談です)
また、帰省先から職場に直行する場合・職場から帰省先に直行する場合は、上記イまたはロとして文句なく通勤になる。
『単身赴任者』にも要件が
ここでは単に『単身赴任者』としたが、帰省先・赴任先住居間移動時の事故が通勤災害と認められるのは次の方等に限られるので、単純に単身赴任ならOKというわけではない。
『転任に伴い、当該直前の住居と就業の場所との間を日々往復することが当該往復の距離等を考慮して困難となったため住居を移転した労働者であって、次のいずれかに掲げるやむを得ない事情により、当該転任の直前の住居に居住している配偶者(事実婚含む)と別居することとなったもの』(労災保険法施行規則7条から)
などだ。ここでは『別居することとなった』相手は『配偶者』だが、
・ 『配偶者』がないときは『子』
・ 『配偶者』も『子』もないときは『本人が介護していた要介護状態の親族』
と別居する場合も認められる。
いずれにしても『子どもが生まれて郊外に家を建てたので、僕は会社近くにアパート借りてそこから通います。』というケースはダメだ。
最初の『転任に伴い』というのがキーワードで、要は会社の都合で泣く泣く別居せざるを得なくなった場合が対象になる。もちろん会社そのものが移転した場合も含む。
また『日々往復困難な距離』とは、原則60km以上とされる。
ここで、『やむを得ない事情』とは、要約すると次のとおり。Ⓐ~Ⓓすべて、転任の直前の住居に居住している方に限られる。
Ⓐ 配偶者が、
① 要介護状態の本人または配偶者の同居の親族を介護する
② 学校・保育所等に通う18才未満の子を養育する
③ 引き続き就業する
④ 本人または配偶者の所有する住宅管理のため、引き続き居住する
⑤ その他本人と同居できないと認められる①~④に類する事情がある
場合が挙げられる。次に、
Ⓑ 配偶者がない場合は子が、
① 要介護状態で、現住所で引き続き介護を受けなければならない
② 学校・保育所等に通っている
③ その他本人と同居できない①・②に類する事情がある
場合も対象だ。
配偶者も子もない場合、転任の直前の住居に居住している方で、
Ⓒ 要介護状態にあり、本人が介護していた親族が、
① 現住所で引き続き介護を受けなければならない
② その他本人と同居できない①に類する事情がある
場合も認められる。また、
Ⓓ 本人が、
Ⓐ~Ⓒに類する事情がある
場合も対象になる。
こうした場合は『やむを得ない事情がある』とされる。
※ 誤字訂正
終業・週病 ➡ 就業