欠勤控除の方法②
欠勤日数が(たとえば出勤日数より)多い場合は、控除額でなく直接支給額を算出するという方法をとっているところもある。
たとえば前回の姫川さんの例(月給30万円・基礎賃金1,837円/h)で、所定労働日数21日の月だとこんな感じになる。残業代等があれば単純にこの支給額に加算されることになるが、ここでは残業がなかった場合で考える。
欠勤 出勤 控除額 支給額
1日 20日 14,696円 ☞ 285,304円
2日 19日 29,392円 ☞ 270,608円
: :
9日 12日 132,264円 ☞ 167,736円
10日 11日 146,960円 ☞ 153,040円
11日 10日 153,030円 ☜ 146,960円
12日 9日 167,736円 ☜ 132,264円
: :
19日 2日 270,608円 ☜ 29,392円
20日 1日 285,304円 ☜ 14,696円
大体いいようだ。この方式で計算すると、控除額は次のようになる。
月の所定労働日数
18日 | 19日 | 20日 | 21日 | 22日 | 23日 | |
---|---|---|---|---|---|---|
1日 | 14,696⑰ | 14,696⑱ | 14,696⑲ | 14,696⑳ | 14,696㉑ | 14,696㉒ |
: | : | : | : | : | : | : |
8日 | 117,568⑩ | 117,568⑪ | 117,568⑫ | 117,568⑬ | 117,568⑭ | 117,568⑮ |
9日 | 132,264⑨ | 132,264⑩ | 132,264⑪ | 132,264⑫ | 132,264⑬ | 132,264⑭ |
10日 | 182,432⑧ | 167,736⑨ | 146,960⑩ | 146,960⑪ | 146,960⑫ | 146,960⑬ |
11日 | 197,128⑦ | 182,432⑧ | 167,736⑨ | 153,040⑩ | 161,656⑪ | 161,656⑫ |
12日 | 211,824⑥ | 197,128⑦ | 182,432⑧ | 167,736⑨ | 153,040⑩ | 138,344⑪ |
13日 | 226,520⑤ | 211,824⑥ | 197,128⑦ | 182,432⑧ | 167,736⑨ | 153,040⑩ |
14日 | 241,216④ | 226,520⑤ | 211,824⑥ | 197,128⑦ | 182,432⑧ | 167,736⑨ |
15日 | 255,912③ | 241,216④ | 226,520⑤ | 211,824⑥ | 197,128⑦ | 182,432⑧ |
16日 | 270,608② | 255,912③ | 241,216④ | 226,520⑤ | 211,824⑥ | 197,128⑦ |
17日 | 285,304① | 270,608② | 255,912③ | 241,216④ | 226,520⑤ | 211,824⑥ |
18日 | 300,000⓪ | 285,304① | 270,608② | 255,912③ | 241,216④ | 226,520⑤ |
19日 | 300,000⓪ | 285,304① | 270,608② | 255,912③ | 241,216④ | |
20日 | 300,000⓪ | 285,304① | 270,608② | 255,912③ | ||
21日 | 300,000⓪ | 285,304① | 270,608② | |||
22日 | 300,000⓪ | 285,304① | ||||
23日 | 300,000⓪ |
欠勤日数 ※ 〇内は出勤日数
出勤日数が月3日のところを見ると、所定労働日数に関わらず255,912円控除されるので、支給額は常に44,088円と一定になる。出勤3日の場合は支給額を先に計算することになるので当然だが。
表を見ると分かる通り、この方法は欠勤日数が少ないときだけでなく、出勤日数が少ないとき ー 欠勤・出勤日数が所定労働日数のおおむね3分の1以内のときは問題なく使えるようだ。実際、所定労働日数が19日~21日のところでは比較的スムーズで懸念材料も感じられない。
・ 出勤・欠勤が拮抗すると問題発生!
しかし欠勤日数と出勤日数が拮抗しているとき(出勤・欠勤のいずれも『所定』の概ね3分の1を超える場合)には問題がある。
まず、所定労働日数22日・23日のところで欠勤日数と控除額の逆転現象が起こる。
たとえば所定が23日の月に、出勤11日と12日の場合では、
出勤日数 欠勤日数 欠勤控除額 支給額
11日 12日 138,344円 161,656円
12日 11日 161,656円 138,344円
と、12日出勤した方が、支給額は逆に少なくなってしまう。
所定労働日数22日・23日の月となると全体の25%程度になるので、そんなにしょっちゅう逆転が起こるのでは困る。
あと、所定労働日数18日のときも、日額単価が14,696円なのに、欠勤9日と10日の控除額の差が50,168円とその3倍以上になり、落差が大きすぎるという問題もある。
支給額にせよ控除額にせよいずれにしても、基礎賃金だけをもとにした固定日額で押し通すというのはかなりムリがある。欠勤・出勤の日数が拮抗するような場合は別の規定が必要だろう。
皆勤手当と欠勤控除
ここまで紹介した『日額固定型』の控除方法は、基礎賃金をそのまま流用する例が多い。控除額または支給額の計算に割増賃金と同じ基礎賃金が使えるということに大きな意義があるので、これを『修正』してしまっては元も子もないような気もする。
しかし、読者の方にも気付いた方がいるかも知れないが、『皆勤手当』を支給している場合には、基礎賃金流用型の難点がもう1つある。
金額的には大したことはないのだが、理論的に齟齬が感じられる場合があるのだ。
前にも述べたように、割増賃金の基になる基礎賃金には皆勤手当を含めることが決まっている(除外賃金の限定7項目のいずれにも属さない)ので、会社の都合でこれを変更することはできない。
その会社の就業規則にもよるが、普通、欠勤控除がある場合は皆勤手当は支給されない。
『月給30万円』のみの姫川さんの場合なら問題ないが、欠勤がなかった場合に『皆勤手当』が支給される月影さんの場合、欠勤がある月の『皆勤手当』が含まれない給与から、皆勤手当を含めて算出した控除額を差引くということは、同じ事由で2回皆勤手当を引いていることになる。
・ ステルス減給?
最初に皆勤手当を含まない給与から引くのは皆勤でない以上当然だが、2回目、さらに(皆勤手当分も含めた)基礎賃金を基にして控除するというのは『ステルス減給』ではないかという疑念だ。
減給は制裁の一種であり、就業規則上の根拠を必要とする。まあ、二日酔いで遅刻して『減給の制裁』というなら分かるが、欠勤控除は私傷病や労災発生時・(ここでは)途中退職や途中就職の場合も含む。とても制裁の対象にはなり得ない。
・ 皆勤手当の存在意義は?
これを回避するため、もし皆勤手当を含んだ給与から控除することにすれば大手を振って基礎賃金から控除額を算定できる。ただそうすれば、今度はその会社に『皆勤手当』の存在意義はなくなる。何日欠勤してもそれにほぼ比例して皆勤手当が減額されるだけになるので、基本給に組み込んだのと同じことになってしまうからだ。
確かに欠勤控除は社内ルールにのっとって運用していれば問題はない。
『うちは、皆勤手当が付かない月にもそれを含んだ計算で割増賃金を支給している。それなら逆に欠勤控除のときは2回引くのもやむを得ない』という言い分もあるのかもしれないが、どうも江戸の仇を長崎で討っているような感は否めない。
こうした問題を避けるためには、欠勤控除の基礎賃金を、割増賃金のそれとは別に、皆勤手当抜きで計算すべきだろう。
皆勤手当のある月の月影さんの例に戻ると、割増賃金用の基礎賃金を基にした日額単価は、皆勤手当を含めた職務関連定額給与である232,500円をもとにして、
232,500円 × 12ヶ月 ÷ 1960h ≒ 1,423円/h
1,423円/h × 8h = 11,384円/日
としたものだった。
欠勤控除用に皆勤手当5,000円を除いた日額を求めると、
227,500円 × 12ヶ月 ÷ 1960h ≒ 1,393円/h
1,393円/h ×8h = 11,144円/日
となる。この金額を欠勤1日ごとに控除することになるので、少なくとも『ステルス減給』の懸念はなくなる。