₁₃₀.欠勤控除額を定額にするのは…



 前にも書いたように、法定の『欠勤控除方式』は存在しない。従ってやり方は様々で、『やってはならない』こと( ー ₁₂₇.公式の『欠勤控除方法』はない ー )が分かっていれば問題はない。
 

欠勤控除の方法①・基礎賃金をそのまま使う

 
 実は、欠勤控除についても割増賃金を計算するときの基礎賃金をそのまま使って運用しているところが多い。これはこれで問題ないし、事務作業のバリエーションを増やさないためにあえてこの方法をとっているところも多い。

 給与計算というのは間違いが許されない仕事。間違いのタネは極力少なくしておくに限る。割増賃金の基礎と欠勤控除の基礎が同額というのは大きな魅力だ。ここでは、以下この方式について考える。

 基礎賃金が1,423円だった月影さんの例だと、1日当たり11,384円(1,423円/h×8h)となり、3日休むと34,152円になる。
 

・ 除外賃金の扱いも社内ルールによる

 
 ここで、基礎賃金に含めなかった個人的手当の扱いを考える。 ー 5.基礎賃金と除外賃金 ー で覚え方として『カツベシジュリー』と書いた『除外賃金』というやつだ。

 月影さんの場合は基礎賃金に含めない『カツベシジュリー』としては、住宅手当15,000円・家族手当8,000円・通勤手当4,200円が含まれていた。

 それらの『欠勤控除』についてはどうすべきか。これは会社ごとに考えが異なるだろう《会社を休んだからといって家賃が安くなるわけでもないのだから…》ということで住宅手当は減額しないという考え方もあろう。

 おそらくそういった温情的な会社は同じ考えで家族手当も満額支給とするだろう。
 ただ、通勤手当はそうはいかないので(休んだ日は通勤しないので)日割とする場合が多いのかもしれない。
 いずれにしてもきちんとしたルールに沿って運用している限り問題はない。

 もし、住宅・家族・通勤手当についても基礎手当?単価を出し、同様に控除する方法をとるとすれば、日額単価は次のようになる。

・住宅手当 15,000円/月 × 12月 ÷ 1960h × 8h/日 ≒ 734円/日
・家族手当   8,000円/月 × 12月 ÷ 1960h × 8h/日 ≒ 391円/日
・通勤手当   4,200円/月 × 12月 ÷ 1960h × 8h/日 ≒ 205円/日

 基礎賃金の日額単価は11,384円だったので、欠勤控除の日額単価は

11,384円 + 734円 + 391円 + 205円 = 12,714円

となる。ただ、通勤手当には免税枠があるので、前回書いたように、これを欠勤控除する場合は『非課税分の通勤手当としていくら支払ったか』は、別枠で明確にしておく必要がある。

 これらについてはあくまで会社の方針次第なので、これを考慮するとなかなか話が進まない。ここでは、こうした個人的要因による手当については欠勤控除しないことにする。
 

・ いつ欠勤しても控除額が変わらない

 
 さて、この方法は、いつ(どんな年の何月に)欠勤しても、1日当たりの控除額が同じになるという利点がある。実際、少ない日数の欠勤であれば優れた方法といえる。
 1日欠勤すれば11,384円、2日欠勤すれば22,708円というように、欠勤したときの減額分がいつも同額に決まっているというのも従業員の納得も得やすいだろう。
 

・ 欠勤日数が多いと不具合も

 
 ただ、問題は欠勤日数が多いときだ。
 また、1賃金計算期間(〆日の翌日から次の〆日まで)の所定労働日数は、〆日によっても変わってくる。祝日以外に盆や正月・ゴールデンウィーク等に特別の所定休日を設定している場合は、所定労働日数が月の半分にも満たないということも起こる。

 こうした場合にも『1日当たり11,384円減額』を押し通すと、欠勤日数が多い場合には思わぬ、というよりとんでもない結果になることがある。
 ただ、ここでも会社ごとに異なるそれぞれの休日を想定しだすとこれもまたきりがないので、これ以上は考慮しない。それぞれ計算してもらうしかない。
 

『平日』の日数は月によってかなり変動する

 
 ここでは単純に、土日祝日が休日の場合で考える。
 一応、2024年度からの10年間(120月)で、現在の祝日が変わらないと仮定した場合の平日日数(この場合はイコール所定労働日数)をまとめてみた。ただ、最近はしょっちゅう祝日の変更があるので、この仮定はあまりあてにはならない。
※ ここでは振替休日・国民の休日を含めた『祝日法による休日』を『祝日』とします。
 

・ 月別平日日数


年度  4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月 1月 2月 3月
2024 21 21 20 22 21 19 22 20 22 21 18 20 247
2025 21 20 21 22 20 20 22 18 23 20 18 20 246
2026 21 19 22 22 20 19 21 19 23 19 18 22 245
2027 21 18 22 21 21 20 20 20 23 20 19 22 247
2028 20 20 22 20 22 19 21 20 21 21 18 21 245
2029 20 21 21 21 23 18 22 21 21 21 19 20 248
2030 21 21 20 22 21 19 22 20 22 21 18 20 247
2031 21 20 21 22 20 20 22 18 23 20 18 23 248
2032 21 18 22 21 21 19 20 20 23 20 18 22 245
2033 20 19 22 20 22 20 20 20 22 20 19 22 246
平均 20.7 19.7 21.3 21.3 21.1 19.3 21.2 19.6 22.3 20.3 18.3 21.3

 2月は普通18日になるし、5月・9月・11月にもそういう年がある。8月・12月・3月には、年によっては23日になる場合がある。2月と12月では、平均でも約4日の違いがあることになる。
 この、月の平日日数別の発生回数は次のようになる。

18日  12回  10.0%
19日  12回  10.0%
20日  34回  28.3%
21日  31回  25.8%
22日  24回  20.0%
23日    7回    5.8%
 

・ 出勤日数が違っても…

 
 割増賃金がなかった月で考えると、この方法では所定労働日数18日の月に17日欠勤して1日出勤すれば、支給される『基本給+役職手当+資格手当』の総額は、

227,500円 ー 11,384円/日 × 17日 = 33,972円

になる。 

 ちょっと考えてもらえば分かるが、この金額は『17日欠勤した月』であれば常に同じ金額になる。所定労働日数23日の月に6日出勤した(欠勤17日)場合も同額だ。
 いくらなんでも月に1日出勤でも6日出勤でも給与が同じというのは大方の理解が得にくいだろう。

 さらに、所定が23日の月に21日欠勤すると(2日出勤しても)控除額は239,064円と満額支給額を超える。これでは労働の対価が支払われないということになるのでダメだ。

 

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2024年03月26日