月影さんの平均賃金
ここで、計算例として、月影さんの平均賃金を算出してみる。月影さんの定期給与は次の通りだった。給与の〆日は末日である。
・基本給 180,000円 ・住宅手当 15,000円
・役職手当 30,000円 ・家族手当 8,000円
・資格手当 17,500円 ・通勤手当 4,200円
・皆勤手当 5,000円 合計 259,700円
月影さんに、前回同様4月10日に平均賃金を算定する事態が生じたとする。1~3月の労働日数と給与は以下のとおりとする。
1月 2月 3月 合計
歴日数 31日 29日 31日 91日
労働日数 20日 19日 20日 59日
定額給与 259,700円 259,700円 259,700円 779,100円
残業代等 29,674円 16,782円 20,351円 66,807円
計 289,374円 276,482円 280,051円 845,907円
計算すると、
平均賃金 845,907円 ÷ 91日 ≒ 9,295円68銭
となる。また、最低保障額は、
779,100円 ÷ 91日 + 66,807円 ÷ 59日 × 60% ≒ 9,240円93銭
なので、多い方を取って、平均賃金は 9,295円68銭 となる。
平均賃金の計算に含めない期間がある場合
ここで、2月1日から末日までちょうど1ヶ月間が、前回(ー ₁₁₁.平均賃金を使うとき ー)で示した平均賃金の計算に含めない期間だった場合はどうなるか。
つまり、その期間が、労災・産前・産後・育児.介護休業期間・使用者の責めに帰すべき事由による休業期間・試用期間等だった場合だ。
この場合は、2月分の給与と日数は無視するので、1月と3月の給与が前項と同じなら、次の計算になる。
( 289,374円 + 280,051円 )÷ 62日 ≒ 9,184円27銭
1月分 3月分 1月+3月
ちなみに最低保障額は、
(259,700円+259,700円)÷62日+(29,674円+20,351円)÷40日 × 60%
≒ 9,127円79銭
となり、原則的な計算式を下回るので、先に求めた9,184円27銭が平均賃金になる。結果として一般的には普通に働いていた場合とそう変わらない金額は保障される。
傷病休職・私事欠勤がある場合
有給休暇以外の傷病休職や私事欠勤がある場合、これらは『平均賃金の計算に含めない期間』ではない。つまり、その期間及び期間中の賃金は普通に計算に含める。
ただし、それだとあまりにも低額になるので、欠勤があった期間の定額給与についても、
欠勤がなければ支払われたはずの金額 ÷ 所定労働日数 × 60%
を下回らないことになっている。
・ 月給者の平均賃金はある程度低下する
計算すると次のようになる。
(原則)
(289,374円 + 280,051円)÷ 91日 ≒ 6,257.41円/日
(下回らない額)
779,100円 ÷ 59日 × 60% + 50,025円 ÷ 40日 × 60% ≒ 8,673.42円/日
1~3月所定 所定労働日数 1・3月分
このように、計算期間中に私用欠勤等がある場合は平均賃金もある程度低下するが、その影響が少なくなるなるようになっている。
・ 所定が週6日の場合は減額幅が大きい
ただし、元々週6日が所定の場合は、減額幅がかなり大きくなる。
仮に、月影さんの所定労働が1日6.5時間の週6日(1月-27日・2月-25日・3月-26日、計78日)だったとすると、
779,100円 ÷ 78日 × 60% + 50,025円 ÷ 53日 × 60% ≒ 6,559.39円/日
にしかならず、原則の6,257.41円/日と比べても若干の救済に留まる。
話はちょっとそれるが『労災保険』の休業補償給付の場合は、『平均賃金』とはちょっと違う『給付基礎日額』というのを使うことになっていて、これは私傷病の欠勤については計算に含めないことになっているので、前項の『平均賃金の計算に含めない期間がある場合』同様、給付額の低下はある程度避けられる。これについては近いうちに述べる。
平均賃金をもとにした金額
冒頭の月影さんの例(平均賃金9,295円68銭)で、平均賃金をもとにしたそれぞれの金額を求めると、次のようになる。
・解雇予告手当
たとえば、解雇予告手当(30日分)なら、
9,295.68円/日 × 30日 ≒ 278,871円
・休業手当・休業補償
会社都合で休業した場合の休業手当や、業務災害などの休業補償(平均賃金の6割以上)なら、
9,295.68円/日 × 60% ≒ 5,578円/日
・ 年次有給休暇中の賃金
年次有給休暇中の給与を平均賃金で支払うことになっている場合は、そのまま
9,295円/日
・減給の制裁の限度
これは、1回について1日分の半額なので
9,295.68円/日 × 50% ≒ 4,647円
等となる。
日雇労働の平均賃金
次に、日雇労働の場合も都道府県労働局長の算定だが、計算が少し異なる。
① 前1ヶ月間に同一事業場で試用された期間がある場合
この場合は、
前1ヶ月間の賃金総額 ÷ 労働日数 × 73%
で求める。法令(1963年労働省告示52号)では例によって『算定事由発生日以前』となっているが、例によって発生日は含めない。
例えば、当日と10日前と20日前に1日ずつそこで働いていた場合は、前2回の給与総額を2で割ったものの73%が平均賃金になる。
つまり、1労働日当たりの給与の73%を平均賃金とするということだ。
この『73%』はどこから出てきたかというと、日雇労働者の平均稼働率だ。この(1963年)当時、日雇労働者の平均稼働率は、ほぼ1ヶ月(30日とする)あたり22日だったので、『22÷30』を四捨五入して73%としたようだ。
この当時は法定労働時間は週48時間。フルタイム労働者は週6日労働が当たり前でその稼働率は86%だった。現在のフルタイム勤務者は特例事業を除けば、祝日なしでも71%(5日÷7日)で、当時の日雇労働者の平均稼働率73%をすでに下回っている。
この『73%』は60年間改定されたことはないようなので、現在の『平均稼働率』がどうなっているかは分からない。ただ、日雇労働の方自体が極めて少数になっているので、今さら改定するほどの必然性もないのだろう。
雇用保険の『日雇労働被保険者』の統計の推移をみると、1980年度の17万人あまりから2022年度の6500人あまりへと、この42年間で26分の1まで減ってきているのだ。
② 過去1ヶ月に労働経験がない場合
この場合は、過去1ヶ月にその事業場で同じ業務に就いた日雇労働者の
賃金総額 ÷ 総労働日数 × 73%
で算出することになっている。
③ ①・②の方法が使えない・又は不当な場合
①や②の方法が使えない場合。ムリに当てはめると不当な金額になってしまう場合は、『都道府県労働局長が定める金額』となるが、給与日額が定められているときは、その日額の73%となることが多い。
次 ー ₁₁₃.賃金に入るもの・入らないもの ー
※ 訂正
月影さんの平均賃金
17行目 保証 ➡ 保障
平均賃金の計算に含めない期間がある場合
9行目・13行目 〃
12行目 先に求めた値が ➡ 先に求めた9,184円27銭が
・月給者の平均賃金はかなり低下する
7行目 保証 ➡ 保障
・時給・日給者は大きな減額はない
2行目・4行目 〃 ('24.01.26)
※ 平均賃金最低保障額の計算式に誤りがありましたので訂正しました。'24.02.05
※ 傷病休職・私事欠勤がある場合 について、全面的に訂正しました。'24.02.20