₁₁₁.平均賃金を使うとき



 ここまで出てきた事項も含めて、平均賃金を計算しなければならない場面はそこそこある。代表的なのは次のような場合だ。
 

① 解雇予告手当      (平均賃金30日分)
② 休業手当        (労基法の最低基準は平均賃金の6割)
③ 年次有給休暇中の賃金  (平均賃金で支払うことになっている場合)
④ 災害補償        (労基法上、休業補償の最低基準は平均賃金の6割)
⑤ 減給の制裁の限度額   (労基法の限度基準は1回につき平均賃金の5割)

オマケ 出来高払制の保障給   (目安として、平均賃金の6割)

 

平均賃金の計算

 
 平均賃金の計算方法の原則は、次の式で行う。

『平均賃金』=『直近(当日前)の賃金〆切日以前3ヶ月間の給与』÷『総歴日数』
                               ※ 銭未満切捨て

 ここで『平均賃金』は、労働基準法上(12条)

『この法律で平均賃金とは、これを算定すべき事由の発生した日以前三箇月間にその労働者に対し支払われた賃金の総額を、その期間の総日数で除した金額をいう』

とされ(賃金締切日がある場合は、直前の締切日から)、事由発生当日を含める規定になっているが、当日は給与が全額支払われないことが多いので、当日は除くことも周知の事実だ。
 

・ 文言上は…読めますが…

 
 これについて、一部労働局から『文言上は算定すべき事由の発生した日も含まれると読めますが、その当日は労務の提供が完全になされず賃金も全額支払われない場合が多いので、当日は含めません』との説明がわざわざなされている。

 つまらないツッコみは避けたいところだが、以前、有権者にうちわを配って批判された大臣が「これは、うちわのように見えますが…」と答弁してひんしゅくを買ったことがあったが、これを髣髴(ほうふつ)させる。

 せっかく何度も労基法改正があり、当の厚労省も認めているのに、なぜ、いつまでも『以前』を『前』に改定しないのか、謎の1語に尽きる。
 

・ 平均賃金計算から除く期間

 
 それはともかくとして『平均賃金』は、次を原則として算定する。
 

① 算定事由発生日が賃金〆切日のときは、その前の賃金〆切日から遡る。
② 賞与や臨時の給与は含めない。
③ 以下の期間がある場合は、その日数・その期間中の賃金を含めない。

   ⑴ 労災休業期間
   ⑵ 産前・産後休業期間
   ⑶ 使用者の責めに帰すべき事由による休業期間
   ⑷ 育児・介護休業期間
   ⑸ 試用期間
   ⑹ 組合専従期間
   ⑺ 争議行為での休業期間


 ここで、⑴~⑸は法律に明記されていて、⑹・⑺は通達による。

 従って、平均賃金の計算期間が3ヶ月きちんととれる以上、その間に上記7つの除外期間があっても、雇用保険の離職票の記載のように、計算期間が遡ることはない

 たとえば、月末〆の会社に長く在籍している育児休業中の方が3月5日に復帰し、4月10日に『算定事由』が発生した場合、3月5日から3月31日までの日数『27日』と、その期間内の給与で平均賃金を算出することになる。
 

・ 平均賃金の最低保障

 
 また、次の金額が最低保障額になる。
 

『直近の賃金〆切日以前3ヶ月間の月定額給与』÷ 『総歴日数』
『直近の賃金〆切日以前3ヶ月間の日給・時給等の給与』÷『総労働日数』× 60%

       ※ ここでの『総労働日数』には、有給休暇を取った日も含める


 つまり、月額給与がない完全な時給や日給の場合は、上記赤文字分だけで平均賃金の最低保障額が算定されることになる。

 前にも少し触れたが、日給1万円(時給1,250円/h×8hでもよい。)のみで週1~5日の場合の平均賃金を計算すると、前3ヶ月の歴日数が91日(13週)の場合で次のようになる(残業も欠勤もない場合。年休取得はあってよい。)。
 

・ 日給の6割は保障

 
週所定 労働日数 給与総額 原則の平均賃金 最低保障  算定平均賃金
1日/週  13日  13万円  1,428.57円  6,000円  6,000.00円
2日/週  26日  26万円  2,857.14円  6,000円  6,000.00円
3日/週  39日  39万円  4,275.81円  6,000円  6,000.00円
4日/週  52日  52万円  5,714.28円  6,000円  6,000.00円
5日/週  65日  65万円  7,142.85円  6,000円  7,142.85円


 こうしてみると何のことはなく、週4日以内の場合でも日給の6割は保障されるということになる。
 

計算期間が3ヶ月取れない場合

 
 ただし、入社間もなくで計算期間が3ヶ月取れない場合は、入社時から直近の賃金〆切日までの分で計算する。

 さらに、入社1ヶ月未満のときは、入社日から事由発生の前日までの分で計算する。

 さらにさらに14日未満(先の控除日数を除いた期間が14日未満のときも含む)でその間休みがない場合は、例外的な場合を除いて給与の計算結果に7分の6をかける。

 これは、労働基準法からいっても週1回は休むはずなので、たまたま入社時から事由発生の前日までに休日がなかったものと考え、その分を除くという考え方である。
 

・入社当日の労災

 
 さらにまた、入社当日に事由発生という場合もある。労災事故などが典型だ。たまたま入社当日に慣れない仕事で事故にあうというのは決して珍しいことではない。

 この場合は、平均賃金の算定期間がないので、雇用契約で定められた賃金、あるいはその事業場で同一の業務に従事する労働者の賃金から推算し、都道府県労働局長が決定することになっている。

 これらをまとめると、次のようになる(4月10日に算定事由が発生した場合)。
 

・ 平均賃金の算定期間

        1/1       2/1       3/1       4/1   4/10
        ▼       ▼       ▼       ▼    ☟
通常……………┗━━━━━━━━〆日以前3ヶ月間━━━━━━━━┛…………
1/16入社  1/1    ┗━━━━━━〆日以前全期間━━━━━━┛…………
2/16入社      1/16        ┗━━〆日以前全期間━━┛…………
3/16入社              2/16        前日まで全期間
4/1入社 (連勤なら6/7)               3/16   ┗━━━┛★
                                4/1
4/10入社 (契約上の賃金等)                        

 

次 ー ₁₁₂.平均賃金の計算 ―

 

訂正
₁₁₁.平均賃金を使うとき
1行目 時効も含めて ➡ 事項も含めて
平均賃金の計算
7行目 自由発生 ➡ 事由発生
・平均賃金の最低保証 ➡ 最低保障
1行目・6行目 保証 ➡ 保障
・日給の6割は保証  ➡ 保障
2行目・8行目 保証 ➡ 保障  ('24.01.26)

※ 平均賃金最低保障額の計算式に誤りがあったので訂正しました '24.02.05
平均賃金を使うとき
6行目 ④休業補償 ➡ ④災害補償 , 労基法の ➡ 労基法上、休業補償の '24.03.13

2024年01月09日