₁₀₇.年次有給休暇の申請期限



年休申請は、いつまで認める?

 
 この年次有給休暇だが、申請はいつまで認めなければならないものなのか。
 労基法やその関連法令には、年休の申請期限に触れたものはない
 

・ 遅くても、前日の終業時刻がリミット

 
 それでも原則、年次有給休暇は暦日で取得するものなので、まず取得当日に申請するのは勤務開始前であってもOUTだ。

 では、前日であればOKかというと、終業時刻後については対応されなくても文句は言えないはずだ。普通に昼間の仕事で、23時50分に上司の家に電話をかけて年休を申請するというのも非常識だろう。

 上司にしても勤務時間はあるので、『年休の申請を受付ける』というのも業務であることを考えれば、受付可能なのは遅くとも前日の業務終了すなわち終業時刻ということになる。
 これを過ぎた場合には、『受付けてもらえればラッキー』というくらいの意識でいてもらわないと困る。
 

・ 使用者の時季変更権を考えると、2日前か

 
 ただし、使用者には今まで見てきたように『時季変更権』がある。

 前日の終業時刻直前では、請求を受付けることはできるが、その年休の取得が『事業の正常な運営を妨げる』可能性があっても、代替要員を確保したりどうしてもムリな場合は時季変更権を行使してほかの時季に変えてもらったりする時間的余裕はない

 それを考えればぎりぎり『2日(2勤務日)前まで』とするのは、合理的理由があると思われる。

 最高裁判決でも、年休の請求を前々日の勤務終了までとする『就業規則の定めは、年次有給休暇の時季を指定すべき時期につき原則的な制限を定めたものとして合理性を有し、労働基準法39条(年次有給休暇の規定)に違反するものではなく有効である』(1982.3.18)というものがある。

 ただ、これは当時の電電公社の事例であり、すべてに一般化はできないが、それでも年休の請求期限についての判断として参考にはなる。
 

・『1~2週間前まで』は訓示規定?

 
 就業規則等で1~2週間前までと規定しているところもあるが、これはいわゆる『訓示規定』みたいなもので、実際に3日前に申請され、『申請期限を過ぎている』ことだけを理由として速攻で『却下』した場合、法廷闘争に持ち込まれてそれが認められるかと言えば、まずムリな場合が多いだろう。

 つまり、上の最高裁判例でいうところの、『原則的な制限を定めたものとして』の『合理性』が認められる余地が少ないのだ。

 ただ、訓示規定にしても、事業の運営上やむを得ぬ必要があってそういう規定になっているのだろうから、事前に予定が分かっている場合には『基本的に』3日前・あるいは1週間前までに申請するよう規定するのは可能だ。

 常識的に考えれば分かると思うが、年次有給休暇の請求については、請求しようとする休暇の期間にも関係する。1日だけの年休と1ヶ月近くの年休では、業務運営に対する影響も全然違うからだ。これについては次回述べる。
 

・ 周囲との調整も判断要素

 
 あと、ここは大事な部分だが、その方が年休を申請するにあたって、会社の業務を阻害しないように、会社や周囲の労働者との調整にどのくらい努力したかという点も重要になる。

 これについては「そんなことは会社が調整することで、従業員にそんな経営判断を求めることはおかしい。労働者が年休権を行使するためにそんな義務はない」という反論も予想される。

 その意見への是非はさておき、次回でも紹介するが、これは判例的にかなり重視されている点だ。
 

後から『年休で!』は可?

 
 ここまでは申請はいつまで認め『なければならないか』という話が中心だったが、人間、朝起きたら急に発熱して身動き取れなくなっていたとか、出勤途中に何らかのアクシデントがあったとか、やむを得ぬ事情が突発的に生じて、突然休まなければならない事態というものは往々にしてある。

 そういう場合は、当日の申出でも年休で処理するというのは、大体どこの事業所でもやっていることだろう。

 就業規則等でも、『年次有給休暇は○日前に申請』と規定しておいて『やむを得ない事情があったとき』は、後からでも『速やかに申請』することで年次有給休暇を『認めることがある』規定になっていることが多い。
 

・ 労災の場合

 
 よくあるのが、労災休業の最初の3日間を年休で処理するというものだ。労災保険では最初の3日は休業補償の対象でないので、原則的には労基法上、会社が平均賃金の6割(以上)を補償することになる。

 ここで、被災労働者と会社の合意があれば、『労働日』については年休で処理することは可能だ。1日の『年休中の給与』は『平均賃金の6割』の2倍以上になることもあるので、年休残日数が多いのであれば、こうした運用は従業員にとっても損ではない。

 ただその場合でも当初3日間に休日が含まれているときには、休日については『年休処理』はできないので別途休業補償をすることになる。
 

・ 私傷病の場合

 
 私傷病の場合は会社に責任はないので、健康保険の『傷病手当金』支給までの(最短)3日間は全く無収入になる。この期間を年休で処理するというのも、労使の合意がととのえばあり得る。

 ただ、この場合も『休日』を年休処理ということはあり得ないので、例えば土日休みの会社で金曜日から病休とすれば、その最初の金曜日のみ年休処理可ということになる。
 

・ 無断欠勤を年休処理?

 
 無断欠勤が続いても、何が理由か知らないが温情的に年休で処理『してやる』という事例も聞く。これは、当人のためを思ってのことであってもNG

 年次有給休暇はあくまで本人の時季指定によって取得するものなので、いかに年休が余っていても本人の意思の介在しない『年休』はあり得ないからだ。

 

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2023年12月19日