99.時間単位年休は分単位ダメ



2010年から、時間単位の年次有給休暇も認められることになった。

 半日年休と違って、時間単位年休は労基法上の制度だが、年次有給休暇の本来の趣旨からすれば『半日年休』よりさらに後退した制度なので、あくまで例外であり、次の事項を労使協定で定めなければ導入できないことになっている。
 

・時間単位年休の労使協定で定める事項

 
① 時間単位年休を認める労働者の範囲
② その日数(5日以内で定める)
③ 1日の時間数(1日平均所定労働時間を下回らない整数
④ 1時間以外を単位とする場合はその時間数
 

・ 時間単位年休の『時間』は『hour』

 
 略して『時間年休』とも呼ばれるが、正式名称は『時間単位年休』だ。

 ここでいう『時間』とは、時刻と時刻の間の時の流れのような『時間』(time)ではなく、あくまで『1時間』という時間の(かたまり)というか、時間の単位としての『時間』(hour)なので、このを壊した『30分単位』とか『15分単位』とかは認められない

 2時間や3時間単位とすることも法的には可能だが、あまり聞いたことはない。ほとんどが『1時間単位』であり、『④1時間以外を単位とする場合は…』となっている通り、1時間を単位とする場合は、これを労使協定で定める必要はない。
 

・ 分単位はダメ


 時間単位年休の適用された事業所で、従業員から
 

「明日、8時の始業から9時半まで1時間半年休をください」


と言われても、さらにこの希望を事業主が認めても(要は、労使の合意があっても)ダメということはしっかり認識しておくべきだ。

 じゃあどういたらいいかというと、この場合なら朝10時まで2時間年休を取ってもらうしかないだろう。

 ここから、時間単位年休の日数を、上限の年5日までと定めた場合で考える。

 所定労働時間が7時間30分の場合でも、時間単位年休の総枠は、上記③(1日平均所定労働時間を下回らない整数)により、8時間/日×5日分で、40時間としなければならない。7.5時間/日×5日分を最後に切上げて『38時間』というのはダメだ。

 そして、ここからがややこしいのだが、時間単位年休を5日間と決めたといっても、これは『最大限、そこまでは可能だよ』というだけの話。

 なので、普通に、この5日間分の一部または全部を、1日や(認められている場合には)半日年休として取得することも可能としておかなければならない。
 

・ 原則は1日年休

 
 原則が暦日1日年休なので、この権利を狭めるわけにはいかないからだ。この5日分(この場合は40時間分)が、全く別枠になるわけではない。

 時間単位年休として消化した分が年40時間に達するまでは、これを『認める』という制度といった方が分かりやすいかもしれない。

 入社半年で年休を10日もらったばかりの人で言うと、最初(基準日)に10日付与され、5時間年休を取ったら残日数が9日と3時間になり、次に4時間取ったら8日と7時間になり…といったイメージになる。

 上記の場合、さらにその後(認められている場合)半日年休を取ると、
 

残日数は7.5日と7時間  になる。


 ここで強調しておくが、決して 8日と3時間にはならない。しつこいようだが、半日年休と時間単位年休は全く別物なので、この点は注意する必要がある。
 

・ 取得義務『年5日』にはカウントできない

 
 さらに、2019年度より、年10日以上の年休付与者に対して、年5日の取得義務が法定されたが、時間単位年休は、義務化された年5日にはカウントできないので、これも気を付けた方がいい。
 

・ 半日年休と時間単位年休は全く別物

 
 月曜日に4時間・火曜日に4時間取ったから『8時間で1日分消化』とはならないのだ。
 この場合、月曜日に半日・火曜日に半日取ったのであれば、『1日分消化』とできる
 時間単位年休と半日年休では、扱いは全く別なのだ。

 従業員の方も、事業所で規定しているほぼ半日程度の年休を請求する場合、半日年休にするか時間単位年休にするかよく考えた方がいい。

 たまたま同じ時間となる年休を取る場合でも、『4時間年休をください。』と言われた以上、使用者も、これを勝手に『半日年休とする』ことはできないからだ。
 

時間単位年休の『上限』は持ち越せない

 
 さらに、もう1つの大きな違いは、『時間単位年休の使用上限(この場合は年40時間)は、翌年度に持ち越せない』ということだ。ここは意外と盲点となっているかもしれない。

 年次有給休暇自体の時効は、広く知られているように原則2年だ。

 年5日以内と限定されている時間単位年休をたとえば1年間全く使わなければ、次年度には年10日分を時間単位年休として行使できると考える人がいるが、これは間違いだ。

 もちろん、これは『上限』の話で、時間単位年休を使った結果余った1日未満の時数そのものは、基本、次年度に持ち越せる

 余った時数を『日』単位に切上げて翌年に持ち越す処理例も厚労省は紹介しているが、これは、『こうせよ』ということではない(確かに、この方法の方が管理上はラクにはなる。)。

 余った時数(α時間とする)をそのまま持ち越す場合には、新たに付与された分と合わせて『年40時間まで』時間単位年休として使えることになる。『年40時間+α時間まで』とはならない

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2023年11月17日