前回までの欠勤控除方法は、どれも『(所定)労働日数に応じた』控除又は支給という考え方では一致している。
これとは別に所定の給与を『1ヶ月の歴日数』で割り、これを日割の基準にするという方法もある。どちらかというと平均賃金等の考え方に近い。
平均賃金と大きく違うのは、直前の〆日まで3ヶ月間のすべての給与(賞与除く)で算出する平均賃金に対して、この欠勤控除の単価は当月の所定給与で算出するということで、歴日数で割ること自体は同じだ。
・ 歴日数1日分が基準の公的給付
給与計算担当者の方ならご承知のように、労災(保険)の休業補償や健康保険の傷病手当金や出産手当金の支払金額、あと雇用保険の基本手当・育児休業給付金等、公的労働・社会保険の支給金もほぼこの方法で単価を算出し、それをもとに1日の支給額を決めていく。
※ 『基本手当』とは、一般被保険者に対する求職者給付。失業等給付の代表
これらの給付の基になる1日の単価の求め方はそれぞれ次の通りだ。
給付の種類 単価の名称 基本的な計算方法
休業補償 平均賃金 前3ヶ月間の給与 ÷ 89~92日(3ヶ月の歴日数)
育児休業給付金 賃金日額 前6ヶ月間の給与 ÷ 180日
傷病手当金等 標準報酬日額 標準報酬 ÷ 30日
※ 『標準報酬』とは、月々の給与を標準化したもの
微妙に違いはあるが、大雑把に言って『歴日数1日当たり』の金額を単価とすること自体は同じだ。『〇月〇日から〇月〇日まで労務不能(または失業状態)であった』ことが明らかなこの種の給付とは親和性が高い。
これらの給付が出るときは待期期間を除いて欠勤で処理することが普通なので、控除額を歴日数で計算することには合理性がある。
・ 欠勤控除法による控除額の違い
また、普通の欠勤でも、長期にわたっての旅行とか長期の帰省とか(年休以外)、又は給与計算期間途中の入退社の場合にも納得が得やすい。
たとえば、土日祝日休みで20日〆の会社に今年の5月1日に入社した場合、基本月給25万円で年間所定労働時間1976時間(基礎賃金1,518円/h)なら(この場合は欠勤ではないので正しくは『不就労による』)『控除額』をそれぞれ計算すると、
① 日額固定(基礎賃金)型
1,518円/h × 8h/日 × 6日 = 72,864円
② 月ごと日割計算型
250,000円 ÷ 18日 × 6日 = 83,333円
③ 歴日数シンクロ型
250,000円 ÷ 30日 ×10日 = 83,333円
となる。②と③が同じくなったのはたまたまだ。
この方は4月はもともと在籍していない。在籍していない期間のその事業所の休日日程によって給与を減額されるのも腑に落ちないという方もいるかもしれない。そうした考えからは、歴日数だけを根拠とする③が(この場合は)妥当とも言える。
また、給与の〆日が月途中の会社で入社日が1日の方が多い場合など、入社月による控除割合が休日の関係で大きく変わるのを防ぎたい場合もいいだろう。
ただし、欠勤控除(このような『不就労控除』も含む。)の方法は統一した方法が求められるので、その時その時で控除方法を変えることはできない。自社で多いパターンや重視したいところによって、控除方法を決めることになる。
・ 歴日数シンクロ型のデメリット
歴日数シンクロ型の問題は、山猫ストのように出勤日を挟んで少しずつ欠勤された場合、欠勤日と隣り合った休日の扱いをどうするのか事前に共通理解を得ておく必要がある点だ。つまりこういう場合だ。
①②③④ ⑤⑥⑦⑧⑨⑩⑪ ⑫⑬⑭⑮⑯⑰⑱ ⑲⑳㉑㉒㉓㉔㉕ ㉖㉗㉘㉙㉚㉛
水木金土 日月火水木金土 日月火水木金土 日月火水木金土 日月火水木金
出㊡㊡㊡ ㊡㊡㊡出出㊡㊡ ㊡出出出出出㊡ ㊡㊡㊡㊡出㊡㊡ ㊡出出㊡㊡㊡
所定労働日のうち欠勤した日だけを控除すると不当に高額な給与となるし、休日も含めて出勤しなかった日を控除すると、逆に不当に安い給与となるからだ。
したがって、出勤しなかった休日については『在籍していなかった』とか『労務不能だった原因が明確に存在していた』という客観的事実をもとにしてその扱いを判断すべきだろう。
前の、姫川さん(月額基本給30万円のみ)の場合で、歴日数シンクロ型の欠勤控除額を示す。それぞれ欠勤1日のところが日割単価ということになる。
右端の『30.4375日』の列については下で説明する。
1ヶ月の歴日数
欠勤日数 28日 29日 30日 31日 30.4375日
1日 10,714円 10,344円 10,000円 9,677円 9,856円
2日 21,428円 20,688円 20,000円 19,354円 19,712円
3日 32,142円 31,032円 30,000円 29,031円 29,568円
4日 42,856円 41,376円 40,000円 38,708円 39,424円
5日 53,570円 51,720円 50,000円 48,385円 49,280円
: : : : : :
25日 267,850円 258,600円 250,000円 241,925円 246,400円
26日 278,564円 268,944円 260,000円 251,602円 256,256円
27日 289,278円 279,288円 270,000円 261,279円 266,112円
28日 299,992円 289,632円 280,000円 270,956円 275,968円
29日 ー 299,976円 290,000円 280,633円 285,824円
30日 ー ー 300,000円 290,310円 295,680円
31日 ー ー ー 299,987円 300,000円
さて、右端の列は、月平均の歴日数だ。
閏年は4年に1度なので、1年間の平均歴日数は365.25日となる。これを12ヶ月で割るとこの日数が出てくる。これを単価として使うこともできる。
・ 閏年は400年に97回
ちなみに、閏年が4年に1回というのは今では正確な表現ではない。昔(ユリウス暦)はそうだったのだが、1582年以降は閏年の決め方は3段構えになっていて、
① 西暦を4で割り切れるときは閏年
② ①の例外として100で割り切れる年は平年
③ ②の例外として400で割り切れる年は閏年
というルール(グレゴリオ暦)となっている。
正確には、閏年は400年に97回となるので、厳密には1年の平均歴日数は365.2425日となる。2000年の閏年は例外中の例外だったということになる。ただ、そのおかげで1901年から2099年までの199年間は常識通り『閏年は4年に1回』が厳密に成り立つ。
今から2100年の平年のことを心配する必要はないので、月平均日数も最初の『30.4375日』をそのまま使ってよい。