₁₁₈.休業手当は平均賃金の6割以上


平均賃金を使うとき②・休業手当



 労働者が労働契約に従って労働しようとしているのに、その労働が拒否され又は不可能になったときは、不可抗力等の場合を除き、使用者は一定額の給与を保障しなければならない。これを『休業手当』という。
 

民法上は給与全額だが…

 
 労働契約(雇用契約)は民法上は『有償双務契約』であり、『当事者の一方が相手方に対して労働に従事することを約し、相手方がこれに対してその報酬を与えることを約することによって、その効力を生ずる』ことになっている。

 よって労働契約が成立すると、労働者は労働に従事する義務を負い、会社側は報酬を支払う義務を負うことになる。これは、労働基準法ができるはるか前からの社会の常識だ。

 ここで、民法536条2項は
 

『債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができない(以下略)』


としている(実は、この後の『以下略』したところにも重要なことが書いてあるので、機会があればどこかで紹介する。)
 これを、会社側が休業手当を支払わなければならない場面に当てはめると…

 会社は、労働契約上、従業員に労働させる権利を持っている。その意味で会社は『債権者』だ。逆に従業員は同じく労働契約上、会社に労働力を提供する義務を負っているので、その意味で従業員は『債務者』となる。

 『債務者』が労働力を提供しようとしても、『債権者』に起因する障害のためにそれが不可能になれば、当然『債務者』は、義務を履行することができない。この場合『債権者』は民法上、『反対給付の履行を拒むことができない』ことになる。

 この『反対給付』は、契約している2者の一方が給付をする際に、もう一方がその対価の意味を持つ給付をすることを指す。

 ここまでの話をもとに、上の民法536条2項(前段)を、休業のときの労使関係に当てはめて日本語に翻訳(?)すると、
 

『会社の責任で働けなくなった場合は、労働者は、その期間の労働に対してもらうはずだった給与をもらう権利がある』


ということだ。その分の給与の全額である。
 

労基法の最低基準は『平均賃金の6割』

 
 ただ、この民法の規定は、会社の故意・過失が前提で、さらに両者の特約で排除することもできる。会社が「払わない」と言ったら最終的には民事訴訟を起こすしかないし、その結果『故意・過失があったとまでは認定できない』となったらあきらめざるを得ない。

 民法は、契約関係にある両当事者が自由・対等であることを想定した一般的な規定なのでこうなっている。

 つまり、労働者が民法を基に休業時の給与を手にするのは極めてハードルが高いのだ。そのため、労基法は休業手当は『平均賃金の6割以上』という強行規定を定めた。この場合の『休業』の理由は、天変地異など不可抗力の場合以外はほぼ含まれることになっている。

 たとえば、月影さんの勤めている会社が、経営上の理由から4月いっぱい休業することになったとする。
 支払わなければならない休業手当は、平均賃金の60%以上なので、1日当たり
 

9,295.68円/日 × 60% = 5,577.408円/日


となる。

ちなみにこの場合、この1日当たりの休業手当を月影さんの所定労働時間である8時間で割ると705円弱となり、どこの都道府県でも最低賃金を割込むが、これは実際に働いた場合ではないので問題はない。
 

・ 休日には支払い義務はない

 
 さて、4月中に会社の元々の休日が9日ある場合、休日には休業手当の支払い義務はないので、この間の休業手当は21日分で、

5,577.408円/日 × 21日 ≒ 117,126円(円未満四捨五入)

となる。月の定額給与259,700円の60%なら155,820円だが、平均賃金から算定しているので、定額給与と比べると45%程度になるがやむを得ない。もちろん、これは刑事罰を伴う労基法の最低基準なので、それ以上払う意思と能力があるのならそんな結構なことはない。

 もっとも、会社が休業しなければこの月259,700円はもらえたはずなので、この突然の休業に使用者の故意・過失があれば、民法上は月影さんは差額の142,574円を請求できる。

 ただし、上に書いた通り実際に払ってもらうためには、最終的には民事訴訟で使用者の故意過失を立証しなければならない。

 ただ、特殊な事例とは言えるが、つい先日のコロナ禍にあっては国のコロナ休業助成を使い、支払い約束額の10割の休業手当を払った会社も多いだろう。
 

一部休業時も平均賃金(1日分)の6割

 
 結構疑問が多いところと思うので、計算上1日分と決まっている平均賃金にあえて『(1日分)』と入れておいた。

 一部休業の場合でも、その日の支給額の最低基準は丸1日休業の場合と変わらず『平均賃金の6割』である。つまり、『休業手当』だけの金額で言うと、
 

休業手当 = 『平均賃金の6割』 ー その日の分として支払われる給与


ということだ。

 たとえば、上記月影さんの場合(所定が8時間)で、半日(4時間とする)出勤で半日休業した場合を考える。欠勤控除の規定にもよるが基礎賃金『1,423円/h』を基にして(1,423円/h×4h=)5,692円控除したとする。

 この日の分として支給された給与は4時間分5,692円+α(+αは、基礎賃金に入らない住宅・家族・通勤手当の分)ということになる。いずれにしても5,692円以上にはなる。

 ここで、5,692円ということは、1日あたりの支給額の最低基準である『平均賃金の6割』である5,578円/日を超える。つまり、この日の『休業手当』は支払い不要となる。

 つまり、平均賃金の時間割りの金額を算出して比例計算するとかの操作は必要ない。

 これについては、特に従業員の方は釈然としないものを感じるかもしれないが、労基法の休業手当は、労働契約上の正当な権利というよりは労働者の生活保障という性格が強いので、《その日についてある程度の収入があるのならそれで良し》という考え方なのかもしれない。

 もちろん民法上は何度か述べたように、休業時のすべての給与を支払うよう会社に掛け合うのも可能だし、会社としても《何時間か休業したのに、休業手当ゼロはマズい》というのなら、たとえば休業時間数分の給与の6割を休業手当として払うなど、労基法を上回る措置は自由だ。
 

所定労働時間が短い日でも『平均賃金の6割』

 
 逆に、週44時間の特例事業の場合に多いが、『土曜日は3~4時間勤務』など、元々の所定労働時間が短い日がある。こういう日に休業した場合も『平均賃金(もちろん1日分)の6割』を保障しなければならない。

 

次 ー ₁₁₉.年休中の給与は平均賃金でも可 ー

 

※ 訂正
・休日には支払い義務はない
3行目 (円未満切上げ) ➡ (円未満四捨五入)
文末に 所定労働時間が短い日でも『平均賃金の6割』 の項を追加  '24.02.13
メインタイトル変更
平均賃金を使うとき②・休業手当 '24.03.12

 

 

2024年02月02日