平均賃金を使うとき①・解雇予告手当
さて、ようやく平均賃金の話に戻ってきた。ここからしばらく、実際に『平均賃金』を使う場面をとり上げる。今回は『解雇予告手当』だ。
解雇予告手当は平均賃金30日分
労基法第20条1項は『使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少なくとも30日前にその予告をしなければならない。30日前に予告をしない使用者は、30日分の平均賃金を支払わなければならない。…』と規定している。
・ 例外は、天災等による廃業・本人の悪行のみ
この、予告なしの場合に支払わなければならないのが解雇予告手当というもので、比較的広く知られている。
この例外(予告手当なしで即時解雇可)は、次の2つだけで、共に監督署の認定が必要だ。
① 天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合
② 労働者の責に帰すべき事由に基づいて解雇する場合
②は『労働者の責』によるものだが、単にその労働者に責任があればいいというものではなく、その労働者による
⑴ 極めて軽微なものを除き、事業所内での窃盗・横領・傷害等刑法犯に類する行為
⑵ 賭博や風紀紊乱など、他の労働者に悪影響を及ぼすもの
⑶ 雇入れの際の重大な経歴詐称
となっているので、これに該当するのは、よほど悪質な場合といえるだろう。なお、これらは『懲戒解雇』と混同されることがあるが、別の概念である(重なる部分はある)。
・ 予告した場合は不要
解雇予告手当については、平均賃金30日分と限定されているので、休日もへったくれも考慮する必要はない。
ただ、これは解雇『予告』手当なので、30日以上前に予告した場合は必要ないし、30日を切ってから予告した場合は、足りない分を支払うことになる。例えば10日前に予告した場合は20日分となる。
・ 解雇予告手当の計算例
ー₁₁₂.平均賃金の計算ー で出てきた平均賃金が9,295円68銭の月影さんが4月に即日解雇された場合、必要な解雇予告手当は、
9,295.68円/日 × 30日 ≒ 278,870円
となり、ほぼ1ヶ月分の給与と言える。この『解雇予告手当』の支払いは、解雇の申し渡しと同時に行うべきものとされている。
また、解雇予告手当については、税法上も社会保険上も、退職所得として扱うことになっているようだ。
・解雇予告(手当)が除外される場合
また、解雇予告(手当)が必要ない場合も労基法に明示されているので、これも記しておく。
① 日々雇い入れられる者
② 2ヶ月以内の期間を定めて使用される者
③ 季節的業務に4ヶ月以内の期間を定めて使用される者
④ 試みの使用期間中の者
ただし、①は1ヶ月以上、②・③は所定の期間、④は14日以上引き続き使用されている場合は当てはまらない。
解雇できない期間
さらに、労基法上解雇できない期間というのがある。次の2つだ。
① 業務上の負傷・疾病により療養のため休業する期間及びその後30日間
② 産前産後の休業期間及びその後30日間
と定められ、このさらに例外(上の期間中でも解雇し得る場合)は、
・ 打切補償を支払う場合( ー ₁₂₁.労基法の災害補償は6種類 ー )
・ 天災事変その他やむを得ない事由により事業の継続が不可能となった場合
(監督署の認定を要す)
に限定されているので、事実上、この①・②の期間は、いかなる理由があっても解雇できないと考えておいた方がいい。
たとえば、仕事中に足をくじいて病院に行き医師の指示で翌日1日休業した場合でも、その日を含めると31日間は(事実上)いかなる理由があろうと解雇できないことになるので、これは覚えておいた方が良い。実際にこれに近い例はあった。
・ 解雇予告したとたんに無断欠勤!
さて、30日後の解雇を予告したとたんに捨て台詞を残して飛び出し、そのまま帰って来なかった…という話も、かつてはよくあった。
最近は労働者にもある程度の法律知識があるのでこんな話もめったに聞かないが、この場合はどうしたらいいか。
これは有給休暇を申請したわけでもないので単なる無断欠勤であり、ノーワーク・ノーペイの原則により給与は発生しない。予告通りの解雇日に離職となり、その後離職票や源泉徴収票等法定の書類を送付して終わりということになる。
もっとも、これだけで終わりということは経験的にはまず100%ない。
客観的合理性・社会的相当性なき解雇は無効
以上示したのはあくまで労働基準法上の最低基準であって、労働契約法上(16条)は、
『解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする』
ことになっている。
客観的合理性・社会的相当性のない解雇は、解雇予告手当を満額払っても無効だ。それどころか、日本では解雇の金銭解決は認められていないので、たとえ何億円積もうが、相手がウンと言わなければ無効になる。
それではどういう場合に客観的合理性・社会的相当性が認められるかというと、整理解雇の場合のようにある程度要件が整理されたものもあるが、一般的には個別具体的に判断されることになるので、最終的には裁判所の判断を待つしかない。
これについては多くの社労士や弁護士の方からもこれに的を絞った書籍が刊行されている。とてもここに簡単に書けるものではない。
さらにそうした書籍は参考にはなるが、具体的事情は千差万別なので、素人判断は危険だ。信頼できる社労士等に相談した方がいい場合が多いだろう。
次 ー ₁₁₈.休業手当は平均賃金の6割以上 ー
※訂正
解雇できない期間
5行目 打切保障 ➡ 打切補償
・ 予告した場合は不要
8行目 278,871円 ➡ 278,870円 '24.02.09
サブタイトル『・解雇予告手当の計算例』を挿入
解雇できない期間
7行目 2つの場合 ➡ 2つの期間
メインタイトル変更
平均賃金を使うとき①・解雇予告手当 ➡ 平均賃金30日分の『解雇予告手当』
解雇できない期間
8行目 2つの期間は ➡ ①・②の期間は '24.03.12