遅刻の統計学的考察 ~プロローグ~

 

 ここでの『遅刻』は、予定していたものではなく、定時に着くつもりだったのに間に合わなかった…という場合のことを言うことにする。

 遅刻はしないに越したことはないが、絶対に遅刻しないためには会社に寝泊まりするしか方法はない。通勤経路で何が起こるか完全に予測することは不可能だからだ。

 遅刻したか間に合ったかだけ見ても話が先に進まないので、問題を、会社に到着した時刻で考えてみる。すると、一般に、会社でも学校でも、家が遠い人ほど早く来るという傾向を感じている人は多いと思う。

 これは単なる経験則ではなく、統計学的に説明できる。

 家から会社まで平均1時間かかる人がいるとする。日本の通勤時間の平均は大体40分程度ということなので、若干それより時間がかかる人といえる。

 さて、この人はいつ家を出たらいいか。

 通勤時間には必ずブレがあるから、1時間前ちょうどに出たら、間に合うか間に合わないか半々のバクチを毎日続けることになる。さすがにそれはないだろう。

 考察の簡単のため、ある方の個々の日の通勤時間はその方の平均通勤時間を中心とする正規分布曲線をなすと仮定し、さらに、平均通勤時間の1割のブレ(1時間なら6分)が標準偏差と仮定する。この仮定に何らかの根拠があると主張するものではないが、日常感覚とのそれ程のずれはないと思う。

 あと、実際には寝坊して予定時刻に出れなかったとか、道路が混みそうなら早く出るとか、遅刻しそうなら近道を行くとか、途中で早く着きそうだと思ったら缶コーヒーを買って休憩するとか、人間だからそういうこともあるだろうが、それもないものとする。

 10分位前について準備したいとかいう人もいるかもしれないが、それは全く別の話になってしまうので、今は保留しておく。
 

 それぞれの価値観

 ここから先は、自分の価値観との相談になる。

 時間を有意義に使うため、週1回くらいは遅刻していいと考える猛者(勇者?)は、5分余裕をみて1時間5分前に家を出れば、80%の確率で始業に間に合う。週1回(20%)は遅刻することになるが、そんなことは気にしない。

 そんなにしょっちゅう遅刻したらルーズな人間と思われていやだ。せいぜい年1回が限度と考えるまじめな人は、16分余裕をみて1時間16分前に家を出る必要がある。1時間16分前に家を出れば遅刻する確率は約0.4%。250分の1で年1回程度となる。

 秘密警察の如く時間に厳格で、遅刻なんて恥さらしのことは一生に1回程度にしたいと考える多少偏執症的な人は、22分の余裕をみて1時間22分前に家を出れば、遅刻する確率は0.012%。ほぼ1万分の1となるので、会社員生活38年としても遅刻は1回くらいになるだろう。ただ、そのへんになると正規分布曲線からのズレもありそうなので、現実の遅刻回数を保証するものではない。

 同様に通勤時間平均30分の人は、上記の猛者なら3分、まじめな人なら8分、偏執症的な人なら11分余裕をみればよい。

 平均10分で着く近場の人は、1分・3分・4分となる。

まじめな人が多い普通の職場なら、始業16分くらい前に通勤時間平均1時間の人が来て、8分くらい前に通勤30分の人が来て、3分くらい前に通勤10分の人が来るのが当たり前ということになる。

 最初の仮定に根本的な誤りがあれば謝るしかないが、会社に近い人が特別ルーズなわけではないようだ。

 

次 ― 1.これは早出残業か ―

 

2022年10月14日