所定労働時間が日をまたぐときの年休
深夜勤務の中でも、深夜0時をまたぐ所定労働時間の場合には、もう1つ問題がある。
1勤務の年次有給休暇を取ったとき、これは何日分の年休かということだ。
労働日については『14.深夜労働の割増と法定休日』で書いたように、『勤務時間の途中で深夜0時をまたぐ場合は終業まで前日の労働とみなす』ことになっている。
ただし、その勤務が法定休日にかかる場合は深夜0時から、前日からの勤務が翌日の始業時刻を超えた場合は始業時刻以降が『翌日の労働』となる。
夜勤の『所定労働時間』が法定休日にかかったり、翌日の所定の始業時刻を超えるということはあり得ないので、1勤務分の年休を取った場合も、1日分の年休に決まっていると思う方が多いだろう。
・ 原則は、年休2日分
ところが、話はそう簡単ではない。年次有給休暇において『1日年休』は厳格に『1暦日の年休』とされるので、1勤務が2暦日にわたるとき、原則的には『2日年次有給休暇を取得した』ものとみなされるのだ。
ただし、これを機械的に適用すると、先に『14.深夜労働と法定休日』で紹介した所定労働時間6時間(20時~2時)の方などにとってはたまったものではない事態になる。
何しろ水曜日に1勤務(20時~2時)年休を取ろうと思ったら、水木2日分の年休とカウントされる。確かにその場合、水曜日の午前0時~2時と木曜日の20時~24時の勤務も(ムダに?)免除されることにはなる。
その結果、火曜日の24時には退勤しなければならなくなるし、金曜日の午前0時には出勤して午前2時までわずか2時間勤務しなければならないことにもなる。
つまり、たった1回休みをもらおうと思っただけなのに、そのためには2日分の年休消化と、前後4日間に及ぶ変則勤務を甘受しなければならなくなるのだ。これは『いい加減にしてくれ!』と叫びたくなる状況ではないだろうか。
・ 1日年休で差し支えない場合も
話をここまで引っ張ってきて申し訳ないが、実は行政解釈では、
※ 法第39条(年次有給休暇)の『労働日』は原則として暦日計算によるべきものであるから、1昼夜交替制のごとき場合においては、1勤務を2労働日と扱うべきである。
と原則的な扱いを示しながらも、
『交替制による2日にわたる1勤務及び常夜勤者の1勤務については当該勤務時間を含む継続24時間を1労働日として取り扱っても差し支えない』
※ 1951.9.26基収第2964号・1988.3.14基発第150号
としている。
つまり、この水曜日に年休を取る場合、所定労働時間(20時~2時)の休みのみを1日年休として取ってよいという常識的な結論になる。
『勤務がない時間が、所定労働時間(20時~2時)を全て含んで継続24時間以上あれば』という条件は付くが、この条件が満たせないということはまずないだろう。
もちろん、そう扱っても『差し支えない』というだけなので、年休2日分とするのが原則であることに変わりはない。
残業が深夜0時を超えたら1日年休不可
ちょっと頭を切り替えてもらって、ここからは日中の普通の勤務を想定してもらいたい。たとえば所定が9時~18時(休憩1時間)のような、ごく一般的な勤務だ。
ここで、翌日年次有給休暇を取得する予定の方が、やりかけの仕事を終わらせておきたいとかで、午前1時まで残業したとする。この方は、予定通り年休を取ることができるのか。
『何が「できるのか」だ。翌日の休みに同僚に迷惑をかけないよう、夜中まで必死に働く近年まれに見る責任感の持ち主だ。翌日はゆっくり年休を取らせてやるのが当たり前だ』というのが大方の意見だと思う。
・ 1日年休はダメ
しかし、これはできない。というのが結論だ。
できないと言っても『休ませてはならん』ということではない。休ませても『1日年休を取得させた』ことにはならないのだ。
この方は交替制でもなければ常夜勤者でもない。単純に残業が伸びて翌日に食い込んだだけなので、厳格に『年休は暦日単位』の原則が適用される。例外措置発動の余地はない。
つまり、年休予定日の0時~1時の1時間勤務してしまっているので、『この』日の1日年休は、取得しようにもすでにその要件を欠いているのだ。
・ 時間単位年休は可
もっとも、時間単位年休(近いうちに登場する)が認められている事業場で、かつ、その方の時間単位年休(法律上の上限は5日分)が8時間以上余っているのなら、『この』日の所定労働時間全てを『時間単位年休』で消化するという裏技は可能だ。
その場合は『1日年休』を『8時間の時間単位年休』へ取得形態を変更することになるので、原則としては、新たにその方が(時間単位)年休を請求しなおさなければならない。
この状況では元々同じ日の同じ時刻の年休なので、取得形態が変わっても事業に影響がないことは明らかだ。請求期限が過ぎていても特別の事情がなければ会社はこれを認めるべきだろう。
というよりは、そこまで思いつく従業員はあまりいないだろうから、むしろ『こういう方法があるが…』と教えてあげれば、請求しないという方は普通いないと思われる。
万一『請求しない』と言われた場合は、『日単位の請求を時間単位に変える』ことは時季変更権をもってしてもできないことが明示されているので、一方的な変更はできない。
時間単位年休の難点として、年次有給休暇の『取得義務』年5日にカウントすることはできない。
あと、時間単位年休は最大でも年5日分なので、短時間の年休をしょっちゅう使っている方の場合は、年に何度も使える技ではない。
・ 任意の有給休暇でも可
年次有給休暇は法律上の制度なので、その運用も法の規制があるのはやむを得ない。
逆に言えば、会社が任意に法律を上回る『有給休暇』を与える場合には、その運用は基本的には自由だ。
この場合も、『翌日』の休みを任意の『有給休暇』で『1日分』として取得させるのは自由(というより、国家権力は介入できない。)だが、法律上の1日年休はダメということになる。
次 ー 98.半日年休は半分でなくても可? ー
※ 修正
・ 1日年休で差し支えない場合も 10行目
『水曜日の2時(終業の24時間前)から木曜日の20時(始業の24時間後)までの間に継続24時間勤務がなければ』
☟
『勤務がない時間が、所定労働時間(20時~2時)を全て含んで継続24時間以上あれば』
'23.12.1