③　1週間単位の非定型的変形労働時間制
　

　『1週間単位の非定型的変形労働時間制』は、30人未満の小売業・旅館・料理店・飲食店という、繁閑の差が予測困難な業種に限った変形制で、これは文字通り1週間以内ではなく、1週間限定である。

　特例事業でも週40時間限度になり、労使協定を締結して監督署に届けるのも1年単位と同じ。労働時間の上限は1日10時間で、これも1年単位と同じ。
　各日の労働時間は、その週が始まる前に書面で従業員に周知する必要がある。

　ここまでは、1ヶ月単位と比べるとかなりハードルが高そうだが、緊急やむを得ない事態が起こったときに、その前日までに書面で通知することで、変更が可能なことがこれまで紹介した変形制と大きく違う点である。
　

・『1ヶ月単位』との比較

　『1ヶ月単位の変形労働時間制』との違いは、次のようになる。

　　　　　　　　1ヶ月単位の変形労働時間制　　　1週間単位の非定型的変形労働時間制
適用業種　　　　問わず　　　　　　　　　　　　　　小売業・旅館・料理店・飲食店
労働者数　　　　問わず　　　　　　　　　　　　　　30人未満
変形単位　　　　1ヶ月以内　　　　　　　　　　　 　1週間
労働時間（1日）　問わず　　　　　　　　　　　　　10時間
労働時間（週）　40時間（特例事業は44時間）　　　40時間
導入手続　　　　労使協定 or 就業規則等　　　　　　労使協定
変更の可否　　　　　✖　　　　　　　　　　　　　　緊急時は前日までに書面で通知　　　

　　　　　　

『料理店』と『飲食店』の違いは何？

　ところで、1週間単位の非定型的変形労働時間制の適用可能業種に『料理店』と『飲食店』が含まれている。どちらにしても適用できることに変わりはないのでそうこだわる必要もないが、あえて分けて書いている以上何か違いがあるはずだ。この違いは何か。

　飲食させるのが飲食店、料理するのが料理店だろうと思うと全然違う。

　調べてみて分かったのだが、これは簡単に判断できる問題ではない。果てしない底なし沼に引きずり込まれるような錯覚を覚えるほど底の知れない話題だった。特に、前回触れた社労士試験の受験生の方は、大切なこの時期にこんなことに頭を悩ますのは絶対に（勝手に）禁止する。

　とりあえず、風俗営業法では、『料理店』と『飲食店』の違いは割と明瞭だ。風俗営業法では『風俗営業』を次のように定義している（一部省略している）。
　

①　キャバレー・待合・料理店・カフェー他、接待をして遊興又は飲食をさせる営業
②　喫茶店・バー他飲食をさせる営業で、所内照度10ルクス以下
③　喫茶店・バー他飲食をさせる営業で、他から見通しづらく、かつ、客席が5m²以下
④　麻雀屋・パチンコ屋他射幸心をそそる恐れのある遊戯をさせる営業
⑤　スロットマシン・テレビゲームの一部

　ここに『料理店』はあるが『飲食店』はない。つまり、料理店は風俗営業に含まれるが、飲食店は含まれないようだ。

　要するに、飲食を主な目的とする店が飲食店、遊興を主な目的とするのが料理店と言うことだ。料理を主な目的とするのが料理店でないところが分かりづらい。

　さらに、風俗営業法の対象は『風俗営業』の他に、性風俗関連特殊営業・特定遊興飲食店（ナイトクラブ等）・深夜酒類提供飲食店（バー・酒場等）がある。
　ややこしいことに後者2つには『飲食店』の語が入っているが、『飲食店』ではない。

　横道にそれるが、①の『待合』とは『待合室』とは違う。『待ち合わせや会合のための場所を提供する貸席業』で、『主に芸妓との遊興や飲食を目的として利用された』場所らしい。

　ついでに、喫茶店とバーについては、『照度が10ルクス超』であり、かつ、『他から見通しやすいか又は客席面積5m²超』であれば、風俗営業ではない。

　建築基準法上は、『飲食店』は、出店の制限は緩いが、『料理店』は風俗営業の一種となるので、商業地域・工業地域等にしか出店できない。
　

・接待があるのが『料理店』

　混沌としているようだが、簡単に言うと、接待があるのが『料理店』、ないのが『飲食店』ということだ。

　つまり『仕出し料理店』は『料理店』ではない。仕出し料理店に行って接待してもらおうとしてもほうきで叩き出されるのがオチだ。

　実はこの辺は行政書士さんの活動分野となることが多い。
　あまり専門分野から離れると墓穴を掘りそうなので（もう掘っているような気もするが）、労働基準法の適用事業の分類でいうと、『料理店』も『飲食店』も共に（1～15号のうち）第14号『接客娯楽業』に含まれる。他には旅館・接客業・娯楽場の事業が該当する。

　また、労災保険の適用事業細目を見ると、『その他の事業』の中に『卸売業・小売業・飲食店又は宿泊業』があり、この中の細目として『飲食店』が出てくる。この『飲食店』には、『飲食提供に付帯して…中略…娯楽設備の提供を行う事業』も含まれる。ちなみに労災保険料率は1000分の3だ。

　この『適用事業細目』では『料理店』は出てこない。この分類では飲食店に含まれると考えるのが妥当だろう。

　雇用保険では、非常に細かく分類されているが、きりがなくなるのでここで触れるのはやめておく。

 

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誤字訂正

非定型型　➡　非定型的

『料理店』と『飲食店』の違いは何？
18行目　擁するに　➡　要するに
20行目　制風俗　➡　性風俗　　　　　'23.07.28