₁₀₄.年次有給休暇の一斉付与(斉一的付与)



 ほとんどの方が4月1日に入社するという大企業であればあまり問題にならないが、年間を通してパラパラと入社してくる会社の場合、年次有給休暇の基準日もバラバラになる。

 そうなるとただでさえ管理上ややこしいことこの上ないのに、基準日以降年5日の取得義務も考えれば、基準日を統一したいという希望が出てくるのも必然かもしれない。
 これを、『年次有給休暇の斉一的付与』という。
 

・ 制度上の必須要件

 
 この場合、付与日を法律より後ろにずらすことはできないので前倒しすることになるが、付与日前倒しの場合、短縮した期間は全労働日出勤したものとして出勤率を計算することが必要だ。もちろん、
 

『付与日数は、いかなる場合にも労基法を下回ってはならない』


ことが必須条件となる。ほとんどの場合に労基法を上回っていても、1日でも下回る可能性がある日があればアウトだ。
 就業規則を作ってみれば分かるが、これは意外と難しい。
 

① 入社日10日・4月1日に11日・12日・14日…

 
 誰でもすぐに思いつくのは、入社日に1回目として10日付与。その後の統一基準日(例えば4月1日)に2回目なら11日・3回目なら12日・4回目なら14日…というように、20日に達するまで次の付与日数を与えていくという方法だ。

 これだと確かに労基法を下回ることはない

 しかし、これでいくと3月に入社した方は入社日に10日・翌月1日に11日付与され、極端な場合は入社2日目で早くも付与日数21日となる。法定では当初6ヶ月間0日なのに、これはいくら何でも大盤振舞いしすぎではないか?

 ちなみに、ここで『入社日10日・2回目10日・3回目11日…』と若干修正すると、4~9月入社の場合は、入社1年半経過時、法律上は21日(10日+11日)付与していなければならないのに20日しか付与していないという法違反を犯すことになる。
 

・ 初回付与日数を入社月で少しずつ変える

 
 『統一基準日』を4月1日とする場合、入社した月によって少しずつ付与日数を変え、
 

入社月  4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月 1月 2月 3月
付与日数 10日 9日 8日 7日 6日 5日  5日  4日  3日  2日 1日 0日


等とするようなものも、古い就業規則等で見ることがある。昔は入社1年で10日付与だったので、こういう会社もあり、その当時は先進的でもちろん合法だった。

 現在の規定に照らすと、これでは5月~9月に入社した場合、労基法の最低基準『6ヶ月継続勤務(8割以上出勤)で10日付与』を満たせないのでダメだ。

 ただし、ここでは触れないが、これはこれで修正を施して、現在に通用する規定にすることはできる。各自考えてみてください。

 実は統一基準日を年1回に完全に統一することを考えると、この最初の『6ヶ月継続勤務』が鬼門になってなかなかうまくいかない。または①のように超大甘基準になってしまう。
 

② 入社6ヶ月経過時に10日、4月1日に11日・12日・14日…


 最初の、入社6ヶ月経過以前に4月1日が到来した場合はその日・到来していない場合は6ヶ月経過した日に10日付与し、後は4月1日の基準日に11日・12日・14日…を付与していくという方法も考えられる。
 

③ 入社時5日・入社6ヶ月経過時に5日、4月1日に11日・12日・14日…

 
 入社時に5日・入社6ヶ月経過時に5日を分割付与し、その後4月1日の統一基準日に、11日・12日・14日…と付与していく方法もある。
 

累積付与日数で考える

 
 ここでは、それぞれの方法を取ったときの、年次有給休暇の累積付与日数を見てみる。
 これは、その日までに付与した年休日数の総計だ。

 実際には、当然ながら年次有給休暇は使えば減っていくし、使わなかった分も付与日から2年で時効で消えていく。
 しかし、統一基準日を設けるなど法定と違う付与方法を取る場合には、それらは度外視して、この『累積付与日数』が、いかなる場合でも法定を下回らないよう設計することが必要になるからだ。

 現実に就業規則を受注したときは、入社日のピッチを細かく細かく取って、モレがないように入念にチェックするのだが、ここにそれを示しても退屈なだけなので、入社日が四半期初日の4通りの場合、各時点までの『累積付与日数』がどうなるかを図示する。

ここで、

  法定基準    黒
① 入社日10日   赤
② 半年後10日   青
③ 入社半年各5日 緑

とし、統一基準日は4月1日とした。  (付与時は太字

1/1入社          1年後☟     2年後☟      3年後☟
月       1  4  7  10  1  4  7  10  1  4  7  10  1  4
法定基準     0  0 10  10 10 10 21 21 21 21 33 33 33 33
入社日10日  1021  21 21 21 33 33 33 33 47 47 47 47 63
半年後10日   0 10 10 10 10 21 21 21 21 33 33 33 33 47
入社半年各5日 5  5  10 10 10 21 21 21 21 33 33 33 33 47

4/1入社          1年後☟      2年後☟      3年後☟
月       4  7  10  1  4  7  10  1  4  7  10  1   4  7
法定基準    0  0  10 10 10 10 21 21 21 21 33 33 33 33
入社日10日  10 10 10 10 21 21 21 21 33 33 33 33 47 47
半年後10日  10 10 10 10 21 21 21 21 33 33 33 33 47 47
入社半年各5日 5  5 10 10 21 21 21 21 33 33 33 33 47 47

7/1入社           1年後☟     2年後☟      3年後☟
月       7  10  1  4  7 10  1  4  7  10  1  4  7  10
法定基準    0  0  10 10 10 10 21 21 21 21 33 33 33 33
入社日10日  10 10 10 21 21 21 21 33 33 33 33 47 47 47
半年後10日   0  0 10 21 21 21 21 33 33 33 33 47 47 47
入社半年各5日 5  5 10 21 21 21 21 33 33 33 33 47 47 47 

10/1入社         1年後☟      2年後☟      3年後☟
月       10  1  4  7  10  1  4  7 10 1  4  7  10 1
法定基準    0  0 10 10 10 10 21 21 21 21 33 33 33 33
入社日10日  10  10 21 21 21 21 33 33 33 33 47 47 47 47
半年後10日   0  0  10 10 10 10 21 21 21 21 33 33 33 33
入社半年各5日 5  5 10 10 10 10 21 21 21 21 33 33 33 33


 商売柄、各社の就業規則を見せていただく機会は多いが、自社作成の場合など、この辺のツメが甘くて、特定の日に入社した場合に、ある期間だけこの累積付与日数が法定に達しないものも見られる。

 さらにマズいのが、言わんとしているところは分かるのだが、語句の使い方のちょっとした違いで、会社の想定より多くの年次有給休暇を付与しなければならない状態になっていた…というものだ。

 書いてしまったので言うが、どうして就業規則が法定に達しないことより会社の想定以上の付与規定が『さらにマズい』のかというと、就業規則は法令に即していることが前提であるものの、その内容が法定に達しないからといって直ちに罰則を食らうことはないからだ。

 もちろんその場合は、就業規則の基準は『最低基準』の労基法に修正され、法令に達しない部分は無効とされる。これはやむを得ないというより当然だ。

 これに対して、就業規則が想定よりはるかに優遇された内容だったとしても、それは『会社の決まり』として、基本的には裁判上も絶対的な会社の義務とみなされる。「そんなつもりはなかった」という言い訳はきかないのだ。

 

次 ー ₁₀₅.年休一斉付与の場合の取得義務 ー

 

※ 修正
累積付与日数で考える 52行目
法定より ➡ 想定より  '23.12.8

2023年12月05日