『職業能力開発責任者』というのは職業能力開発促進法(12条)で規定されているもので、選任は事業主の努力義務となっている。
職業能力開発促進法とは
職業能力開発促進法とはどういう法律かというと、その目的は第1条で
(労働施策総合推進法と相まつて)、職業訓練及び職業能力検定の内容の充実強化及びその実施の円滑化のための施策並びに労働者が自ら職業に関する教育訓練又は職業能力検定を受ける機会を確保するための施策等を総合的かつ計画的に講ずることにより、職業に必要な労働者の能力を開発し、及び向上させることを促進し、もつて、職業の安定と労働者の地位の向上を図るとともに、経済及び社会の発展に寄与すること
と定められている。このように、職業教育・(職業に関する)教育訓練・職業能力検定や、それらの機会確保について定めた法律といえる。
・ 事業主の努力義務
国や自治体の義務も定められているが、ここでは事業主の責務について述べる。
事業主は雇用する労働者に対して、職業能力の開発・促進のため、
① 必要な職業教育を行うこと
② 自ら職業に関する教育訓練*¹・職業能力検定*²を受ける機会を確保すること
③ 職業生活設計に関して自発的な職業能力の開発・向上を図ること
などを努力義務として定めている。
また、この法律の12条で、事業主の努力義務の1つとして定められているのが『職業能力開発責任者』の選任だ。
職業能力開発責任者の業務
『職業能力開発責任者』の業務としては、次の事項に関する相談指導と国等との連絡が中心になる。()内は定めている条文。
・ 労働者に対する職業訓練(9条)
・ 職業に関する教育訓練・職業能力検定(10条)
・ 実習併用職業訓練(10条の2)
・ キャリアコンサルティング・配置等の雇用管理(10条の3)
・ 教育訓練休暇・教育訓練や職業能力検定を受ける時間確保等(10条の4)
『労働者に対する職業訓練』とは、いわゆるOJT等も含まれる。
これらの中でもキーワードとなる『職業に関する教育訓練』と『職業能力検定』について少し説明する。
*¹ 職業に関する教育訓練
『職業に関する教育訓練』を『職業教育訓練』と詰めないのは『職業教育・訓練』と誤読される恐れがあるからだ。
『職業に関する教育訓練』はあくまで自発的なものだ。要件が整えば教育訓練には『教育訓練給付金』も支給されることになっている。これについては
を参照してほしい。
・ 職業に関する教育訓練の例
教育訓練の例として、厚労省のパンフレットで給付金の口座指定対象となるものとして記載されているものを一部紹介する。大学・専門学校の講座等は省いた。
○ 輸送・機械運転
大型自動車1種.2種・中型自動車1種.2種・大型特殊自動車・準中型自動車Ⅰ種・普通自動車2種・フォークリフト運転実技講習・けん引免許・車両系建設機械運転・玉掛け・小型移動式クレーン・高所作業車・不整地運搬車・クレーン・デリック・無人航空機…
○ 情報関係
Webクリエーター・ITパスポート・CAD利用技術者・ITSSレベル2.3…
○ 専門的サービス
キャリアコンサルタント・社会保険労務士・行政書士・税理士・司法書士・弁理士・通関士・中小企業診断士・土地家屋調査士・マンション管理士・FP・気象予報士・産業カウンセラー・公認内部監査人・司書(補)…
○ 医療・社会福祉・保健衛生関係
介護福祉士・社会福祉士・保育士・(準)看護師・助産師・精神衛生福祉士・はり師・きゅう師・柔道整復師・歯科衛生士・理学療法士・作業療法士・言語聴覚士・(管理)栄養士・保健師・美容師・理容師・あん摩マッサージ師・臨床工学技士・臨床検査技師・(主任)介護支援専門員・喀痰吸引・福祉用具専門相談員・衛生管理者・医療事務・調剤薬局事務・健康管理士・メンタルヘルスマネジメント…
○ 営業・販売関係
調理師・宅地建物取引士・インテリアコーディネーター・ソムリエ・国内旅行業務取扱管理者…
○ 技術関係
測量技師・電気工事士・航空運航整備士・自動車整備士・海技士・建築士・電気主任技術者・土木施工管理技士・建築施工管理技士・管工事施工管理技士・電気通信工事担任者…
○ 製造関係
製菓衛生士・パン製造技能…
*² 職業能力検定
職業能力検定については職業能力開発促進法の2条3項に
この法律において「職業能力検定」とは、職業に必要な労働者の技能及びこれに関する知識についての検定(厚生労働省の所掌に属さないものを除く。)をいう。
と定義されている。
最後の()内は二重否定になっているので、要は『厚労省の所掌(担当)に属するものに限る』ということだ。
ここでネット上では『職業能力検定』について調べてもほぼ100%『技能検定』に勝手に?変換されるようだ。
・ 『技能検定』は『職業能力検定』に含まれる
実はこの職業能力開発促進法の条文構成上、第5章『職業能力検定』が2つに分かれていて、第1節が『技能検定』、第2節が『補足』になっている。
第2節の内容は、技能検定以外の職業能力検定の振興や基準整備等になっているので、『技能検定』は『職業能力検定』に含まれる関係になることが分かる。
ちなみにこの法律上は『技能検定』の定義は見つからないので厚労省のパンフレットによると
技能検定とは、働くうえで身につける、または必要とされる技能の習得レベルを評価する国家検定制度
となっている。また、これに合格すると『技能士』を名乗ることができる。
技能検定 = 職業上必要な技能習得レベルを評価する国家検定制度
ということになるようだ。
・ 技能検定の例
技能検定には次のようなものがある。一部紹介する。
○ 建設関係
造園・建築板金・石材加工・建築大工・とび・ブロック建築・タイル貼り・配管・厨房設備施工・型枠施工・鉄筋施工・コンクリート圧送施工・防水施工・内装仕上げ施工・熱絶縁施工・サッシ施工・自動ドア施工・シャッター施工・バルコニー施工・ガラス施工・塗装・路面標示施工…
○ 金属加工関係
鋳造・鍛造・機械加工・金型製作・金属プレス加工・鉄工・工場板金・めっき・金属ばね製造・金属材料試験…
○ 一般機械器具関係
機械検査・産業車両整備・内燃機関組立・油圧装置調整・建設機械整備・農業機械整備…
○ 電気・精密機械器具関係
電子機器組立・半導体製品製造・プリント配線板製造・自動販売機調整・光学機器製造…
○ 食料品関係
パン製造・菓子製造・製麺・ハム.ソーセージ.ベーコン製造・みぞ製造…
○ 衣服・繊維製品関係
染色・ニット製品製造・婦人子供服製造・紳士服製造・和裁…
○ 木材・木製品・紙加工品関係
機械木工・家具製作・建具製作・畳製作…
○ プラスチック製品関係
プラスチック成型…
○ 貴金属・装身具関係
時計修理・貴金属装身具製作
○ 印刷製本関係
印刷・製本…
○ その他
ウェブデザイン・ピアノ調律・接客販売・着付け・印章彫刻・義肢.装具製作・フラワー装飾…